王世明氏撮影
國立東華大學
国立東華大学
台湾東部の国立大学で自然や環境を基軸とした地域の活性化について学ぶ
国立東華大学は、1994年に教育部(日本の文部科学省に相当)の支援で台湾屈指の観光地、花蓮県に設立されました。当時、台湾政府は日本に類似した地方国立大学の創設に力を入れており、大学が学術的な知識の伝播、人材の育成を通じて地域に貢献するという目標を掲げました。国立東華大学は7つのカレッジ(学部に相当)、42学科、55の大学院研究科や研究センターを擁し、台湾東部を代表する国立総合大学として、理学や工学、経営学、芸術学、環境及び海洋学、先住民族研究、人文社会等多岐にわたる学問を学ぶことができます。花蓮の自然や環境を基軸とした地域の活性化について充実した内容の教育が提供されていることは、特筆すべき点です。
学びのポイント
台湾の都市部と地方の格差問題
日本では人口が都市圏に集中することで、地方の経済や社会の発展にマイナスの影響を与えています。地方の過疎化や産業の空洞化現象を緩和するため、古民家をリノベーションして都市部からの移住者に提供し、農業の研修を実施するなど若者や都市在住者への移住支援が行われています。また、地域の農産物などを活用して特産品を生産する等、持続可能な社会を目指すSDGsの理念に基づいた様々な取り組みも行われています。台湾でも都市部と地方との格差は大きな問題となっており、中央政府から潤沢な資金が投入される台北市等北部の発展とは対照的に、花蓮県等台湾東部は開発から取り残されていました。そこで、台湾政府は近年、地方創生の理念と政策を日本から導入し、台湾東部等地方の活性化や産業の振興に力を入れています。
日本の経験を台湾へ―地方創生と大学の社会的責任
行政院(日本の内閣に相当)は、2000年代の後半から大学教員や学生を日本に派遣し、文部科学省の推進する「大学による地方創生人材教育プログラム」を学び、同様の施策を台湾で構築する事業を促進させました。このプログラムは地方大学が中心となって地域の活性化を目指すもので、大学が地域の経済や社会の発展において中心的な役割を果たし、教育と職業、教育と産業を結び付けて地域に根差した教育活動を展開します。企業が社会に貢献することを「Corporate Social Responsibility (CSR)」、すなわち「企業の社会的責任」と呼びますが、大学もまた社会問題の解決や地域に貢献するという意味で、「University Social Responsibility (USR:大学の社会的責任)」が問われる時代となったのです。日本では信州大学、山梨県立大学、千葉大学、龍谷大学等の大学が地方創生人材教育プログラムに参加、台湾でも日本の経験を踏まえ、国立東華大学を含めた各地の大学で地域の活性化と人材の育成が積極的に推進されています。
台湾東部の地方創生政策に国立東華大学が果たす役割
国立東華大学では、大学が地域の「好鄰人(よき隣人)」になるべく努力しています。その一環が、教職員と大学生が共に地域のよき隣人として地域社会の問題の解決や地場産業の発展に活躍できるような人材の育成です。具体的には、地域、教員、学生の三位一体の協力関係を構築し、過疎化が進む花蓮県各地の小中学校の教育を支援するほか、実務家を招いて学生と共に地場産業の活性化の模索が挙げられます。また、地域の非営利団体や社会福祉団体と協力して教員と学生が社会問題の解決に力を尽くしています。国立東華大学教育学部では大学生が地域の幼稚園児を集めて地元の農産品をテーマとした食農教育を行っています。公共の交通機関が乏しい花蓮県ではバイク通学する学生が多く、交通事故が頻発しています。そこで、大学と地元警察が協力して学生たちと交通安全のリテラシー教育を実施しています。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】地方創生と「大学の社会的責任」が、どのような理由から台湾で普及したのか考えてみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】国立東華大学はどのような方法で花蓮県の社会問題の解決に取り組んでいるのでしょうか。日本の経験を参考にして考えてみましょう。
- 【現地体験学習】国立東華大学の教育学部、社会学部や原住民学院(台湾の先住民に関する研究と教育を行っている)、社会参与中心(社会参画センター)等を見学し、大学の教職員や学生たちが地域の活性化に果たしている役割について知見を深めましょう。
参考資料
台湾における地方創生や大学の社会的責任については、熊坂敏彦「台湾における『地方創生』と『循環型地場産業』形成可能性」『昭和女子大学現代ビジネス研究所 2019 年度紀要』(2019年)が参考になります。「国立東華大学 インタビュー#34には、台湾で初めて“原住民”の名が冠された学部であり、在籍学生の半分が先住民である「原住民学院」に留学している日本人学生のインタビューを読むことができます。国立東華大学の教授でもある作家の呉明益氏の小説『歩道橋の魔術師』(天野健太郎訳、河出文庫、2021年)『自転車泥棒』(日本語訳、文藝春秋、2021年)を読んでみましょう。
- ウェブサイト
-
公式https://www.ndhu.edu.tw/?Lang=zh-tw
(中国語)
- 所在地
- 花蓮県寿豊郷大学路二段1号