南廻線_多良駅付近(松葉隼提供)

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多良火車站

多良駅

東海岸の廃駅から海を見つめて

台湾南部の枋寮と台東を結ぶ台湾鉄道の南廻線は、日本統治時代から建設が計画されながら、中央山脈の南端を通過するという地形的条件から、1991年になってようやく全線開通し、台湾を鉄道で一周できるようになりました。南廻線瀧渓駅と金崙駅の間にある多良駅は、2006年に廃止されました。しかし、後に台湾で最も海に近い駅として話題になり、現在は自動車や観光バスで多くの人が訪れる観光スポットとなり、鉄道駅としての復活も計画されています。

学びのポイント

台湾百年の悲願

1895年、下関条約によって台湾は清から日本に割譲されました。その翌年の1896年に台湾総督となった桂太郎は日本政府に対して「台湾統治に関する意見書」を提出しました。桂はこの意見書の中で台湾を一周する鉄道の建設を提言し、現在の東部幹線と南廻線は「恒春より東海岸を貫通して宜蘭に達する線路」として言及されています。このうち、花蓮港と台東を結ぶ台東線は1926年に、宜蘭と花蓮港を結ぶ北廻線は1980年に完成しましたが、台東と台湾南西部にある枋寮を結ぶ区間は、中央山脈に長大なトンネルの建設が必要であることから、1980年になってようやく建設が始まりました。1985年、卑南(現在の台東)と太麻里間が開業したのを皮切りに、1990年には中央トンネルが完成、1992年に枋寮と台東間全線が開業し、鉄道で台湾を一周できるようになりました。約百年の歳月をかけた悲願がようやく実現したことになります。

南廻線_普快車(台東駅)(松葉隼提供)

台湾の厳しい地形が風光明媚な鉄道路線を生み出す

台湾は日本と同じく、環太平洋造山帯に位置し、平地のほとんどが西部に集中しています。そのため、中国大陸から台湾へやって来た漢族の移民は西部に集中し、台湾経済も西部を中心に発展、日本統治時代から戦後も西部を中心に開発が進みました。台湾東部は海岸線まで断崖が迫っている場所も少なくなく、街はおろか、鉄道や道路の建設も難しい地形でした。
 南廻線のうち、台湾南西部に位置する枋寮から枋野まではほぼ山間部を走ります。枋野を出発すると、列車はやがて長大な中央トンネルに入ります。古荘信号所から台東県に入り、大武を過ぎてようやく列車は海のそばを走ります。瀧渓から金崙の間の多くは海岸線を走ります。多良駅もこの区間にありました。眼下には台湾省道9号線と海が一望でき、台湾で最も美しい景観をゆく鉄道路線でしょう。多くのトンネルが掘られ、海岸線に張り付くように走る南廻線は、台湾の厳しい地形や地理的環境を物語るとともに、こうした厳しい地形を台湾の人々が乗り越えてきたことを証明しています。

南廻線_風景(松葉隼提供)

南廻線を走った「解憂列車」

全線開業後、2021年に全線の電化が完了するまで、この区間にはディーゼルカーやディーゼル機関車が牽引する列車が走っていました。台湾の西部や北部、台北や台東を結ぶ列車として最新式の特急電車が走っていましたが、南廻線はややレトロな車両で運行されていることが多かったのです。なかでも、日本やインドから購入された青い客車で運行されていた「普快車」は、台湾では「藍皮車」(青い列車)や「解憂列車」(憂いを解く列車)などと呼ばれ、多くの旅行者を魅了してきました。かつて台湾全島を走っていた客車が唯一南廻線に残され、緑色のビニールシートに、冷房もなく大きく窓を開け放して走る車両は、21世紀にはやや不似合いなレトロな雰囲気を放っていました。2020年12月23日に南廻線が電化されたことにより、普快車は前日の12月22日に惜しくも運行を終了しました。しかし、2021年10月から列車をリニューアルして再度運行が始まり、ふたたび南廻線をゆったり走る姿が見られるようになりました。
多良駅は2006年に鉄道駅としての使命を終えましたが、台湾で最も海に近い駅として多くの観光客を集めるようになりました。残念ながら、現在は列車で降り立つことができず、バスや自動車で訪れます。水平線を一望できるホームはさながら展望台のようで、多くの人が訪れます。

南廻線_普快車(橫)(松葉隼提供)

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】台湾東部の自然、地理環境、歴史について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】南廻線に乗ってみましょう。全部でいくつのトンネルがあるか数えてみましょう。
参考資料
台湾の鉄道については、多くのガイドブックなどで紹介されています。 『台湾鉄道パーフェクト : 懐かしくも新鮮な,麗しの台湾鉄道』(交通新聞社、2014)、片倉佳史『台湾鉄道の旅 : 全線全駅路線図付き車窓ガイド』(JTBパブリッシング、2011)などを読んでみましょう。やや専門的な書籍としては、小牟田哲彦『大日本帝国の海外鉄道』(東京堂出版、 2015)、 高橋泰隆『日本植民地鉄道史論 : 台湾、朝鮮、満州、華北、華中鉄道の経営史的研究』(日本経済評論社、1995)などがあります。

(松葉隼)

ウェブサイト
交通部観光局 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003123&id=A12-00332
所在地
台東県太麻里郷多良村瀧渓8-1号

特記事項
自動車やバスで訪問の場合、1人あたり清掃費10元が必要