宮岡真央子撮影

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臺中市博屋瑪國民小學

台中市ポウマ国民小学校

祖先の教えを学び、自分を知り世界と繋がる

台湾には、中国大陸から移民が到来するよりはるか昔から、固有の言語、文化を伝える数多くの民族が暮らしてきました。これらの先住民族は、今日の台湾で「原住民/原住民族」と呼ばれます。台中市ポウマ国民小学校は、大安渓上流域に暮らすタイヤル民族(Atayal、泰雅族)の村にあり、以前は「達観国民小学」という中国語の校名でした。2016年、教員、児童、村民らの投票によって校名を「養育・伝承・隆盛」を意味するタイヤル語のP’uma(ポウマ、博屋瑪)に変更し、台湾で初めて先住民族の文化を中核とする独自のカリキュラムによる教育を行うようになりました。山の小さな公立小学校が、台湾の多文化教育の最先端の姿を示しています。

学びのポイント

子どもたちは何を学ぶのか?

ポウマ国民小学校では、タイヤル民族の祖先から伝えられた知恵や規律を意味する「ガガgaga」という概念を中核に、タイヤル文化、中国語、英語、算数、自然/生活、科学技術という6領域によりカリキュラムが構成されています。午前は中国語、算数など一般的な教科の学習、午後はタイヤル文化の学習をします。タイヤル文化の学習では、タイヤル語、機織り、狩猟、食文化、建築など、生活のなかで祖先から伝えられてきた豊かな知恵や技術や決まりについて、テーマごとに体験を通じて学び、それが算数など他教科の学習にも結びつけられます。指導には多くの村民も関わり、学びの場は村の川や山、畑などにも及びます。

宮岡真央子撮影

なぜ学校で民族文化を学ぶのか?

台湾では中国語が「国語」とされ、先住民族に対しても、長らく一般の国民と同じ教育がなされてきました。そのため、先住民族の子どもたちは自分の民族の言葉や生活や歴史を知らず、自分が何者かをよくわからないままに成長する、そして先住民族の言語や文化が次世代に伝えられなくなるという大きな問題がありました。そこで、ポウマ国民小学校のピリン・ヤプ校長は、学校を民族教育の舞台とすることを決断しました。民族教育とは、民族のルーツから出発して自分を知り、自我を完成させる、真の全人的な学びなのだといいます。

民族教育の成果はみられるのか?

子どもたちは、自分が先住民族であることを好ましく思い、自文化にアイデンティティと誇りを感じるようになりました。学力も向上し、テストの結果は全国平均を上回っています。国際交流活動も盛んです。他地域でも、民族教育を主軸にしたカリキュラムによる教育に取り組む小中学校が増えています。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】台湾の先住民族の文化と歴史について調べてみましょう。
  • [現地体験学習]ポウマ国民小学校の校舎や校庭で、タイヤル文化の要素を探してみましょう。
  • 【事後学習】日本の先住民族アイヌの人々が取り組んでいる教育について調べてみましょう。
参考資料
台湾の先住民族の歴史や文化については、赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための60章』(明石書店、2016年)の第1章「歴史①石器時代から16世紀まで 地理・自然・先史」、第6章「エスニック・グループ」、第24章「原住民」で概要を知ることができます。また、先住民族の各民族文化の特徴などについては、台北駐日経済文化代表処ウェブサイトの「台湾の原住民族文化」、順益台湾原住民博物館ウェブサイトの「台湾原住民族について」が参考になります。ポウマ国民小学校については、ピリン・ヤプ校長の講演録、比令・亞布(ピリン・ヤプ)「P’uma(博屋瑪、ポウマ)――台湾初の原住民民族実験小学校の始まり」(『日本台湾学会報』22号、2020年6月)をぜひ読んでみてください。独自の民族教育カリキュラムを可能にする「実験教育」制度については、やや専門的ですが、宮岡真央子「原住民族実験教育――台中市博屋瑪国民小学の実践を中心に」(『台湾原住民研究』23号、2019年11月)があります。

(宮岡真央子)

ウェブサイト
公式http://www.tges.tc.edu.tw/
所在地
台中市和平区達観里東崎路一段育英巷6号
特記事項
訪問を計画する場合は、必ず事前に打ち合わせをしてください。