正面のロッジアに並ぶ計6本の柱に注目。てっぺんに巻き貝のような彫刻があるイオニア式列柱です。これは、古代ギリシアから続く西洋建築の王道というべきスタイルです。ほかに、中央から突き出した「車寄せ」には、三角形のブロークンペディメントが帽子のように載り、歯形のようなデンティルが水平に並んでいます。そんな装飾一つ一つが、この建物を比類のない壮麗な姿に見せているのです。
渡邉義孝画
洋館の内部の見どころは、なんといっても階段。上下の空間をつなぐ劇的な装置であるとともに、窓から導いた光によって、天に昇るような上昇性を人に与えます。この建物でも、柱や階段の板(段板)、やわらかくカーブする手すりと、それを支える美術品のような丸い子柱などは必見です。来た人は、ここでワクワクしてほしい! そう願って建築家は階段をデザインするのです。台中州庁のメイン階段は、玄関を入ってすぐ目の前。小さい声で「わっ」と驚いてほしいところです。
中庭に進んで、振り返ってみましょう。ぜんぜん違う「顔」が見えます。裏側は赤煉瓦のボディと白いライン、そして半円アーチが整然と並んでいます。正面とはうって変わって、「おとなしい」姿なのです。異なる様式を大胆に組み合わせる、これは設計者の森山松之助が得意とした手法のひとつでした。