楽活靴下のふるさと博物館(山﨑直也氏提供)
樂活襪之郷博物館
楽活靴下のふるさと博物館
台湾における繊維業の歴史を学ぶ観光工場
植民地時代の台湾統治は農業に傾斜し、戦後の台湾では衣料品の自給がほとんどできない状態でした。そのため、戦後の国民党政府は、繊維業の輸入代替を始め、彰化縣にも多くの繊維関連工場が林立し、靴下が代表的な生産品の一つになりました。しかし時代が進み、2002年のWTO(世界貿易機関)加入後に中国から安い靴下が大量に輸入されるようになり、多くの靴下工場が閉鎖を余儀なくされました。その逆風の中でも、いくつかの工場は防臭機能などの付加価値を高めた商品を生産することで生き残りを図りました。と同時に、靴下に用いられる技術や伝統的な台湾の生産文化を学べる観光工場を開放し、DIYなどの活動も提供しています。
学びのポイント
彰化と繊維業
植民地時代の台湾では、農業を中心として発展させるという日本政府の方針のもと、繊維業の発展は阻害され、台湾では必要な繊維製品のわずか16%程度しか自給できていませんでした。したがって、日本の敗戦後の台湾では、繊維製品の大部分を輸入せざるを得ない状況だったと言えます。中華民国政府は、アメリカから援助された原材料と中国大陸から持ち込んだ大量の紡織機を用いて、繊維製品の輸入代替を始めます。1940年代後半の彰化県では、植民地時代から繊維業が盛んだった和美地区を中心に、洪勝和紡績工場をはじめとする大企業や関連する中小零細企業が林立し、繊維業の一大集積地となっていきました。
台湾繊維業の発展
台湾の繊維業は急速に発展、1950年代には生産過剰気味となって、海外への輸出が検討されるようになりました。当時の台湾繊維業は、OEM(Original Equipment Manufacturing)といって、日本やアメリカなどの海外ブランドの商品を請け負う形態がほとんどでした。台湾には綿花や羊毛といった原材料がなかったため、化学繊維を製造する技術が発展し、吸湿性や防臭性などを高めた機能性繊維の開発が進み、2018年のサッカー・ワールドカップでは世界の16のチームが台湾製ユニフォームを身につけていたと言われるほどになります。「楽活靴下のふるさと」では防臭機能を強化した靴下の生産に特化し、OEM以外に自社ブランドの靴下も生産、販売しています。
WTO加盟と観光工場
付加価値を高めた商品を生産できるとはいえ、消費者は日用品である靴下に、低価格を求めがちです。台湾は2002年にWTO(世界貿易機関)に加入し、輸入品に高い関税をかけることができなくなりました。その結果、中国から安価な靴下が輸入されるようになり、彰化の靴下工場の多くが閉業せざるを得なくなったと言います。彰化の「襪仔王觀光工廠」など一部の工場では、生産を続けながら台湾の伝統的な工業の姿を残し、同時にブランドの価値を高める観光工場の事業を始めました。そこでは、靴下生産の構造や歴史を学ぶことができると同時に、靴下を利用したDIYを楽しむこともできます。
襪仔王觀光工廠(國府俊一郎氏提供)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】スポーツショップなどで靴下の価格と機能を調べ、どのような理由で価格に差が出ているのか考えてみましょう。
- 【現地体験学習】靴下の製造地で、Made in Taiwan の靴下を探してみましょう。
- 【現地体験学習】靴下生産の歴史や技術の進展を学び、観光工場で行われるDIYに参加してみましょう。
- 【事後学習】台湾や日本の他の観光工場と比較してどのような共通点や相違点があるかをまとめ、相違が生じる理由について議論しましょう。
参考資料
薛化元主編、永山英樹訳『詳説 台湾の歴史―台湾高校歴史教科書』(雄山閣、2020年)の第10章「経済:成長と課題」を読むと、戦後台湾の経済発展の概観をとらえることができます。「ペダルを踏んで靴下編み体験!話題の「チャリックス」に乗ってきた!【靴下生産量 全国No.1の町 奈良県広陵町】」という日本の靴下生産体験の動画では、観光工場の一つのあり方を知ることができます。さらに専門的知識を深めたい人は圖左篤樹「1950年代の台湾綿紡織業の発展 : 輸入代替政策に関する考察を中心に」(『社会システム研究』、第15号、2007年)を読んでみましょう。中国語ですが、「台灣創業精神,拚出最強織襪聚落:5雙襪子有4雙是社頭織的國際大廠4億雙訂單敲門」(『遠見』)では、靴下製造がさかんな彰化県社頭地区のある工場の様子を知ることができます。
- ウェブサイト
- 公式
https://www.loho.com.tw
(中国語)
- 交通部観光署 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003016&id=A12-00245
- 彰化旅游資訊網(彰化県政府城市暨観光発展処) https://tourism.chcg.gov.tw/AttractionsContent.aspx?id=180&chk=b20e7176-5a9a-4266-97f8-309238b2f3f2&l=JP
- 所在地
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彰化県社頭郷社石路559号
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