鶏精の瓶を模したエントランス(山﨑直也氏提供)

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白蘭氏健康博物館

白蘭氏健康博物館

定番健康食品「鶏精」の歴史を知り健康への理解を深める

台湾中部の古都鹿港の西側、彰化県の鹿港鎮、線西郷、伸港郷を跨いで臨海部の埋立地に広がる彰浜工業区は製造業の集積地で、ガラス、リボン、木材などの観光工場があります。白蘭氏健康博物館もその一つで、鶏精(チキンエキス)、燕窩(ツバメの巣)などの健康食品のブランドであるBRAND'S ®(以下、台湾での呼称である白蘭氏を用いる)が2003年に開設した、台湾初の健康をテーマとする博物館です。2008年と16年にリニューアルを行い、現在はマルチメディア技術を活用し、健康への理解を体験的に深めることができる展示をしています。エントランス部分は主力商品である鶏精の瓶を模した形で、館内には、①白蘭氏のブランドストーリー、②インタラクティブマルチメディア体験、③製品とグッズを購入できる健康マーケット、④鶏精の製造工程を俯瞰できる空中廊下の4つのエリアがあります。

学びのポイント

コンビニで買えるチキンエキスの代名詞

健康と食の安全に対する社会の関心が高まる中、台湾最大のポータルサイト「Yahoo!奇摩」と大手健康情報メディア「早安健康」は、2016年に「健康品牌(ブランド)風雲賞」という調査を開始しました。毎年実施される同調査では、医薬品、栄養補助食品、医療機器、スポーツアイテムなどの各部門で、優れたブランド、商品が選出されます。栄養補助食品の部門は、2024年調査では、コラーゲン、霊芝・キノコ・朝鮮人参、ビタミン、ツバメの巣、チキンエキス、しじみ・牡蠣エキス・ゴマ、ビフィズス菌、関節サポート・カルシウム、魚油、視力サポートの10のカテゴリーに細分化されています。白蘭氏の鶏精は、チキンエキスのカテゴリーで2016年から9年連続で第1位に選ばれています。ドラッグストアはもちろん、コンビニでも買える緑のキャップの白蘭氏の鶏精は、チキンエキスの代名詞として、日々の栄養補給から夏バテ対策、深夜の受験勉強、産後ケアと、台湾の人々の生活に寄り添っています。

はじまりは英国王の健康食

白蘭氏ブランドは2015年に180周年を迎えました。H・W・ブランド氏(H. W. Brand、以下ブランド氏と表記)が英国でBrand’s & Companyという会社を立ち上げ、チキンエキスの一般販売を始めた1835年がその起点であり、「白蘭氏」はブランド氏の名前に由来します。ブランド氏は英王室のお抱え料理人でしたが、彼が仕えた国王ジョージ4世(1762〜1830、在位1820〜1830)は、その自堕落な暮らしぶりから、「快楽王」「放蕩王」と人々に揶揄される人物でした。日々衰えていく国王の健康状態を憂慮したブランド氏は、脂肪分を丁寧に取り除いた濃縮チキンスープを作り、これを飲んだジョージ4世はすぐに食欲を取り戻し、体力を回復したと言われています。やがてお抱え料理人の職を退いたブランド氏は会社を立ち上げ、国王の健康を救ったチキンエキスを量産する体制を整えました。

初期のチキンエキスは缶入りだった(山﨑直也氏提供)

実は台湾企業ではない

上述の部分では、一貫して白蘭氏を企業名ではなくブランド名として扱っています。今や台湾の日常に完全に溶け込んでいる白蘭氏の鶏精ですが、実は台湾発祥の食品ではありません。台湾での鶏精製造の歴史は、1970年代半ばに始まります。当時、シンガポールに本社を置き、白蘭氏のブランドを保有していたCerebos(セレボス)が、台湾現地法人の台湾食益補公司を設立し、彰化県の福興工業区に工場を設置しました。その後、1990年に日本のサントリーがアジア太平洋を管轄するCerebos Pacificを買収したことで、台湾現地法人もサントリーの傘下に入りました。写真の工場の入口は2024年5月に撮影したものですが、BRAND’S SUNTORYと書かれています。

白蘭氏の工場の入口【2024年5月撮影】(山﨑直也提供)

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】日本のいわゆる「健康食品」をめぐる問題と安全を保つための仕組みについて調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】現地のスーパー、コンビニ、ドラッグストアで、「健康品牌風雲賞」に選出されている商品を探し、他にどのような商品があるか、日本と比べてみましょう。
  • 【現地体験学習】現地で台湾の人々の健康や食の安全に対する意識について話を聞いてみましょう。
参考資料
松浦優子「夏バテ対策に試してみたい台湾の人気健康食品「鶏精(ジージン)」(『リビング東京Web』2017年6月14日掲載)は、日本ではあまり知られていない台湾の有名健康食品としてチキンエキスを紹介する記事で、チキンエキスの味や栄養素に触れるほか、筆者の松浦氏が白蘭氏健康博物館を実際に取材して得た情報として、製造工程についても書いています。河浦美絵子「台湾の一般食品に使用禁止となった『健康』の文字」(『ニューズウィーク日本版』2022年7月10日掲載)は、台湾における健康志向の高まりと食の安全を守るための健康食品認証制度について書かれています。冨岡伸一「サントリーの海外展開の歴史と現状(酒類・食品・外食)―やってみなはれ精神とお客様原理主義に」(『セミナー年報2010』関西大学経済・政治研究所、2010年、115-130頁)は、サントリービジネスエキスパート株式会社品質保証本部・品質保証推進部部長(当時)の講演の記録であり、2000年代までのサントリーグループの海外進出について説明する中で、1990年のCerebos社の買収、Cerebos Pacific社による健康食品事業の展開にも触れています。君塚直隆『ジョージ四世の夢のあと』(中央公論新社、2009年)は、チキンエキス誕生のきっかけを作った英国王ジョージ4世について、自堕落ぶりや放蕩ぶりが強調されてきたこれまでの人物評価とは異なる側面にも光を当てた評伝です。

(山﨑直也)

ウェブサイト
公式 http://www.brandsworld.com.tw/

(中国語)


交通部観光署 https://www.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0001113&id=11293

(中国語)


彰化旅游資訊網(彰化県政府城市暨観光発展処) https://tourism.chcg.gov.tw/AttractionsContent.aspx?id=75&chk=7611a758-75b5-4657-8405-98f707cb99b2&l=JP

所在地
彰化県鹿港鎮鹿工路18号

特記事項
鶏精の生産工程が見られる空中廊下は写真撮影禁止です。