旨臨宮の祭祀(松田良孝氏提供)

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旨臨宮

旨臨宮

日本で暮らす台湾出身者のルーツを訪ねてみる

旨臨宮は玄天上帝という神を祭る道教の廟で、水田が広がる台湾中西部の農村地帯にあります。ここは沖縄県の石垣島と縁がある場所。旨臨廟では旧暦7月に大きな祭祀を行う習わしですが、この地域から石垣島に移住した女性がこの祭祀に合わせて里帰りし、祈願を行い、郷里の人たちと近況を確かめ合うのです。石垣島を主島とする八重山地方は地理的に台湾と近いため、明治期以降、台湾からの移民が行われています。旨臨廟の女性のように、郷里とのつながりを維持する人がいる一方、世代交代が進むにつれて台湾との関係が薄れる場合もあり、台湾との関係の持ち方はさまざまです。また、沖縄の社会になじめず、アイデンティティをめぐって葛藤を抱える人もいます。

学びのポイント

八重山に移ったのはどのような人たちですか?

旨臨宮のある彰化出身者が多数を占めています。石垣島では戦前からパイナップルの栽培が行われ、彰化がパイン産業の盛んな地域であることとの関連が指摘されています。出身地は彰化のほか台湾の広い地域に分布し、農地開発や西表島の炭鉱での労働を目的とした移民もいました。また、戦後の米軍統治期の八重山には、サトウキビ栽培や林業などに関係した仕事をするために移り住む人がいました。

台湾とは密接な関係が続いていますか?

石垣島ではマンゴー栽培が盛んですが、これは、ある台湾出身2世が台南地域などでノウハウを習得して持ち帰ったことから広まりました。2013年に、八重山地方の伝統芸能を台湾で披露した際には、石垣島在住の台湾系の人たちが現地との調整などをして公演を後押し、文化交流で一役買っています。プライベートな形で台湾の親戚との付き合いを続けている人も珍しくありません。その一方で、世代が下るに伴い、台湾との関係が希薄になることもあります。台湾出身の両親が亡くなった後、その遺品の中に台湾の連絡先が書かれたメモを見つけ、それまで存在すら知らなかった台湾の親戚を探し当てたという人もいます。

石垣島に住む台湾系の人たちと出会うには、どこへ行けばいいのでしょうか?

台湾発着のクルーズ船で日本を旅するツアーでは、寄港地の沖縄で台湾系の人たちが受け入れ業務に携わることがあります。石垣島でも、台湾からのクルーズ船が到着する時にフェリーターミナルへ行けば、バスガイドなどとして活躍する台湾系の人たちの姿が見られます。こうした台湾系の人たちの中には戦後台湾で中国語の教育を受けていないため、もっぱら台湾語でガイドをする人が含まれます。その場合、中国語によるガイドを求められても、そのニーズには応えられません。このように、台湾系の移民と台湾で暮らす人たちとの間には時に溝が生じることがあります。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】あなたが暮らす地域には、どこの国から移住してきた人たちが暮らしていますか。また、日本の生活習慣となじみがない人たちが無理なく暮らせるようにするため、どのような工夫がなされていますか。
  • 【事前学習】【事後学習】あなたが外国で働こうとした場合、パスポートのほかに何が必要か調べてみましょう。
  • 【事前学習】【現地体験学習】【事後学習】台湾では多数の外国人が働いています。どのような国から来た人たちでしょうか。
参考資料
八重山と台湾の関係を取り上げた書籍としては、国永美智子ら編著『石垣島で台湾を歩く』(沖縄タイムス社、2012年3月)、松田良孝『八重山の台湾人』(南山舎、2004年7月)。沖縄と台湾の関係については又吉盛清『大日本帝国植民地下の琉球沖縄と台湾』(同時代社、2018年1月)があります。

(松田良孝)

所在地
彰化県田中鎮三民里斗中路二段230巷64号