交通部觀光局提供(邱家終撮影)

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扇形車庫

扇形車庫

保存運動で残された台湾唯一の扇形車庫

台湾北部の基隆から南部の高雄、潮州などを結ぶ台湾鉄道の西部幹線は、北部の竹南から中部の彰化まで山沿いを走る山線(台中線)と海沿いを走る海線(海岸線)に分岐しています。彰化駅はこの南側にある分岐駅で、日本統治時代から鉄道の要衝として知られ、駅構内には機関車を管理、修理する機関区が置かれていました。現在も駅構内に残る機関庫はターンテーブルを中心に約99度の扇形に広がっており、「扇形車庫」として知られています。かつて台湾各地で見られた扇形車庫も、現在は彰化駅構内に残されたものが唯一となっています。

学びのポイント

蒸気機関車の管理、修理の場

現在、日本や台湾では多くの列車が電車やディーゼルカーによって運行されています。これら列車の特徴は、ひとつの列車にモーターやエンジンを搭載した車輌が複数存在することで「動力分散方式」と呼ばれます。一方で、少し前まで日本でも台湾でも多くの列車が機関車によってモーターやエンジンを搭載していない客車を牽引する「動力集中方式」によって運行されていました。動力集中方式の場合、蒸気や電気、石油などによって動く機関車が列車の心臓でありエネルギー源でもあり、夜間など使用しない時には機関庫へ入れて管理をしていました。電気機関車やディーゼル機関車と異なり、蒸気機関車(SL)は車両に「前後」の区別があり、進行方向を変えるには機関車の「前後」を入れ替える必要がありました。蒸気機関車の「前後」を入れ替えるため、かつては多くの駅に「転車台」と呼ばれる、車輌を回転させるための機械が設置され、その横には機関車を管理、修理するための機関庫が設置されました。転車台の横に機関庫を設置することで、複雑な設備を必要とする分岐器(ポイント)の数を削減し、たくさんの車輌を効率よく配置することができたのです。円形の転車台に機関庫が設置され、大型機関庫が転車台を中心に「扇状」に広がったことから、「扇形車庫」と呼ばれます。かつてはほとんどの列車が蒸気機関車に牽引されていましたが、現在ではほとんどの列車が電気で走るため、実際に必要となる機会はほとんどありません。それでも、保存された蒸気機関車とともに、台湾鉄道の発展を今に伝えています。

蒸気機関車の管理、修理の場

彰化駅は台湾中部に位置し、山線と海線の分岐点です。海線は日本統治時代の中期、台湾での鉄道輸送量が増大し、既存の山線のみでは対応できなくなったことから、比較的平坦な沿岸部を走るバイパス路線として計画され、1922年に全通しました。その南側の拠点として選ばれたのが彰化で、機関区や保線区などが置かれていました。現在の扇形車庫は、1922年に造られたものです。
1920年代当時、台湾鉄道の列車を牽引していたのはすべて日本やアメリカ製の蒸気機関車でした。蒸気機関車の蒸気を発生させるためには多くの水と石炭を必要とするため、現在の電車や電気機関車と比べて、整備や修理のために多くの人が必要でした。拠点となった駅には鉄道員とその家族が多く住み、周辺の街は発展していきました。しかし、近代化が進むと徐々に蒸気機関車はディーゼル機関車や電気機関車、そして電車へと変わり、整備や修理を行う拠点は削減されていきました。台湾では、1979年に基隆と高雄をむすぶ西部幹線が電化され、最後まで残された内湾線からも1984年に蒸気機関車が引退、保存用に残された僅かな車輌以外はすべて廃車になりました。
彰化駅の扇形車庫も蒸気機関車の廃車とともにその役目を終えるはずでした。前後の入れ替えを必要としないディーゼル機関車や電気機関車には、転車台や扇形車庫は必要ありません。大きく古い車庫を維持管理していくには多くの費用も必要です。しかし、1990年代末に鉄道ファンを中心に扇形車庫の撤去反対運動が行われ、現在も保存された蒸気機関車やディーゼル機関車の点検や整備に利用されています。日本では京都鉄道博物館、津山まなびの鉄道館、旧豊後森機関庫など各地に扇形車庫が保存され、利用されていますが、台湾では彰化に残されたものが唯一で、今なお現役で利用されていることが特筆されます。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】日本に残っている扇形車庫について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】扇形車庫にはどのような車両が保存されているでしょうか。彰化駅を探検してみましょう。
参考資料
台湾の鉄道については、多くのガイドブックなどで紹介されて おり、『台湾鉄道パーフェクト : 懐かしくも新鮮な,麗しの台湾鉄道』(交通新聞社、2014)、片倉佳史『台湾鉄道の旅 : 全線全駅路線図付き車窓ガイド』(JTBパブリッシング、2011)がおすすめです 。やや専門的な書籍としては、小牟田哲彦『大日本帝国の海外鉄道』(東京堂出版、 2015)、 高橋泰隆『日本植民地鉄道史論 : 台湾、朝鮮、満州、華北、華中鉄道の経営史的研究』(日本経済評論社、1995)などがあります。

(松葉隼)

ウェブサイト
交通部観光局 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003016&id=A12-00264
所在地
彰化市彰美路一段1号

特記事項
月曜休館。参観にはパスポートなどの掲示が必要。10人以上の団体見学は2週間前に申請が必要。