研究者の熱量が生んだ本
ところで、本書の前身にあたる『台湾を知るための60章』の刊行は2016年。「百科事典的な台湾概説書がついに出た!」と感動したことを憶えている。
といっても、百科事典型がそれまでなかったわけではない。『もっと知りたい台湾』(弘文堂・1986年、第2版は1998年)を皮切りに、『台湾百科』(大修館書店・1990年、第2版は1993年)、『暮らしがわかる〈アジア読本〉台湾』(河出書房新社・1995年)など、どれもきわめて充実した内容で、当時大学院生だった私にとってかけがえのない存在だった。
しかし残念なことに、その後しばらく日本ではこうしたスタイルの概説書は刊行されなかった。90年代後半以降も日台両地で台湾研究は着実に進み、一般読者の台湾への関心も急速に高まったのだが、当時の台湾研究者たちがその変化のスピードに対応しきれなかったとも言えるだろう。私自身も研究者の末席にいたのだから、2000年代の空白期間については忸怩たる思いがある。
そうした状況に危機感をおぼえた若手研究者たちの熱意が「60章」を生み、その後台湾社会の変化に合わせてアップデートされたのが「72章」なのだ。常に前を向いて進化を止めないところは台湾の姿と重なり、ひたすら頼もしい。
私の手元には「60章」のほか、ページをめくりすぎてボロボロになった「72章」と買ったばかりの「72章」がある。合計204章だ。おそらく今後も増えていくに違いない。それに自分がついていけるかどうか、そっちばかりが心配なシニア世代の私である。