交通部観光局提供、梁展誌撮影
呉志学撮影
清境農場
清境農場
台湾各地に点在する「異域」~清境農場・桃園市龍岡・新北市南勢角~
清境農場は「異域」と呼ばれる地域から台湾にやってきた人たちの移住先の一つです。ここは単に羊のショーを見てのんびり涼むだけではない、興味深い歴史があります。異域とは、滇緬泰(中国雲南、ミャンマー、タイ)の国境地帯のことです。台湾では1961年に柏楊(鄧克保)のルポルタージュ『異域』が出版されて以来、滇緬泰をひとまとめにして、「異域」(奇妙な場所)と呼んだのです。国共内戦により1949年に国民党が中国大陸から台湾へ移る際、一部の軍隊を滇緬泰の国境地帯に配置しました。いずれ中国大陸を奪還するためです。しかし、大陸奪還は果たせず、滇緬泰の国境地帯で孤軍奮闘していた人々 のうち、約1万1000人が1953-54年と1961年に台湾へ移住します。移住先はそれぞれ現在の南投県仁愛郷清境農場、桃園市中壢区龍岡、桃園市龍潭区干城五村、高雄市美濃区高雄農場吉洋分場、屏東県長治郷大同合作農場でした。さらに移住は細々と続き、基隆、新北市中和区南勢角、台東、花蓮、宜蘭にも彼らのコミュニティーがあります。台北にある中華救助総会などが、約70年にわたりタイ北部への支援を続けています。
学びのポイント
「義胞」はどういった人々なの? 清境農場の場合
滇緬泰から台湾へやってきた人々は、国家に忠義を尽くしたとして、義胞や義民と呼ばれます。漢民族だけでなく、滇緬泰に暮らす様々な山岳民族(シャン族など8民族)もまた、義胞の構成メンバーでした。霧社をさらに山奥へ進むと清境農場があります。海抜約2000mで今や台湾のスイスと呼ばれるように涼しく過ごせる一大避暑地は、日本統治時代には見晴(みはらし)という名の陸の孤島でした。義胞たちはここを開墾して農場を創り上げ、台湾を横断する自動車道である中部横貫公路の支線に位置付けたのです。
「孤軍」と呼ばれた人々は台湾でどのように暮らしていたの? 桃園市中壢区龍岡の場合
ルポルタージュ『異域』(1961)は、滇緬泰でなお戦闘状態にある国軍を孤軍として表現し、台湾に孤軍の名を広めました。孤軍のうち台湾へ移住した人々は、眷村に住みます。眷村とは1949年の中華民国の台湾への移転に伴い、中国大陸からやってきた人々(外省人)が住み着いた場所をいいます。現在の桃園市中壢区の龍岡には忠貞新村という眷村があり、ここには孤軍だった兵士やその家族が多く住んでいます。彼らの多くは雲南出身者であるために周囲には雲南料理店が多く並びます。また、1962年にはムスリム(イスラーム教徒)のためにモスク(清真寺)が建立されました。今、龍岡では約半世紀にわたり続いたタイ北部からの移住を踏まえ、雲南人ネットワークのビジネスが広がっています。毎年4月のソンクラーン(タイの旧正月)に合わせて開かれる龍岡米干節(Longgang Rice Noodle Festival)も注目を浴びつつあります。
誰が「義胞」で、誰が「孤軍」なの? 新北市中和区南勢角の場合
1950年代以来、異域から台湾への移住が細々と続くのとともに、海外で暮らしていた華僑の帰国(来台)があり、さらに1990年代以降に東南アジアからの移住労働者(新移民)の受け入れがあります。台湾では、今や誰が泰緬孤軍の子孫なのかがよくわかりません。新北市南勢角の華新街はミャンマー街とも呼ばれ、台湾でさらに独自の進化を遂げた異域となっています。南洋観光美食街は、MRT南勢角駅からわずか徒歩10分です。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】中華民国の国土の範囲の変遷を調べてみましょう。
- 【現地体験学習】清境農場の最北端にあたる博望新村には、滇緬文物展示館があります 。この展示館で、義胞たちの雲南でのゲリラ活動から清境農場の観光地化までの歩みを 学びましょう。民宿「滇緬的家」(雲南ビルマの家)に泊まれば、いろんな話を聞けます。
参考資料
まずは、鄧克保(柏楊)『異域』(1961年)をひもときましょう。日本語訳は、柏楊(著)、出口一幸(訳)『異域:中国共産党に挑んだ男たちの物語』(第三書館、2012年)です。『異域』は1990年と1993年に台湾で映画にもなっており、それぞれ『異域』と『エンド・オブ・ザ・ロード』という日本語版があります。撒光漢「異域照片集/故事集部落格」には泰緬での古い写真が載っています。清境農場の歴史は、『従異域到新故郷:清境社区五十年歴史専輯』(南投県仁愛郷清境社区発展協会、2011年)で多くの図表や写真を見ながら理解できます。同書はネットで公開されています。現代台湾での異域について専門的に理解を深めたい場合は、内田隆三(編著)『現代社会と人間への問い』(せりか書房、2015年)pp.71-95の若松大祐「アジアの孤児と異域の孤軍:現代台湾社会の多元性を見直すために」をお読みください。
- 所在地
- 南投県仁愛郷仁和路170号