黃毓純提供
TSMC台積創新館
TSMC台積創新館
世界一の半導体製造企業(ファウンドリ)、TSMCで技術者のくらしに想いを馳せる
正式名称を台湾積体電路製造股份有限公司というTSMCは、半導体の製造に専門化した「ファウンドリ」という種類の会社で、台湾では一般に「台積公司」と呼ばれています。創業者はモリス・チャン(張忠謀)で、本社は新竹科学園区にあります。チャンは1985年に台湾政府に招かれてアメリカから帰国した技術者で、1987年にTSMCを創設しました。半導体製造に専門化した工場を持つTSMCは、設計を行うが自分の工場を持たない「ファブレス企業」の半導体製造を請け負うことで成長しました。2019年には日本円に換算して年間約4兆円を稼ぎ出す、世界に名を知られた大企業となっています。TSMC本社に付設されている台積創新館は、2016年12月に開館した近未来型の博物館で、TSMC創業と発展の歴史を学ぶと同時に半導体についての学びを深めることができます。VR(仮想現実)技術を用いた展示施設も人気のスポットです。
学びのポイント
「ファウンドリ」と「ファブレス企業」はどのように助け合って成長してきましたか。
当初、台湾政府は日本の東芝のように半導体の設計から製造まで一貫した生産ができる会社を作ろうと考えていました。しかし、台湾は製造業に強みがあったものの、半導体設計のできる技術者があまりいませんでした。そこでモリス・チャンは、製造に専門化した会社(ファウンドリ)を創設することにしました。その一方で、アメリカのシリコンバレーでは、先進的な半導体の設計を手がけるものの、工場を造る資金のないベンチャー企業が生まれていました。そこで、TSMCのようなファウンドリが製造を請け負うことで、ベンチャーで工場を持たないファブレス企業でも自分の製品を作ることができるようになりました。
台湾(新竹科学園区)の企業はどのように技術者を確保したのでしょうか。
モリス・チャンは1949年、18歳でアメリカに渡りハーバード大学を卒業して、半導体製造の下請け企業に勤め、工場責任者として実践的な技術を身につけました。1985年、54歳で台湾政府に請われて帰国し、TSMCを創業します。当時、チャンのようにアメリカの大学
で電子工学などを学び現場で活躍している華人(中華系)技術者が大勢いました。これらの技術者たちは、新竹科学園区に新しく設立されたTSMCなどの会社に誘われ、アメリカの家族や親戚を引き連れて台湾に移住しました。さらに彼らは、華人ネットワークでつな
がる同僚や友人などの技術者やその家族も連鎖的に台湾に連れてくることになりました。
エンジニアの生活面を支える仕組みはどのようになっているでしょうか。
アメリカから華人ネットワークを通じて技術者を台湾に連れてきたのですが、技術者は働くだけではありません。家族もいれば普段の生活もあり、友人も必要です。TSMCは会社の中にジムやプールなどの施設を整えました。子育て中の従業員が働きやすいように託児
所も設置しました。しかし、アメリカ育ちの子どもたちのために、台湾政府は、小中高一貫の国立のバイリンガルスクール「国立科学工業園区実験高等中学」を設立し、科学園区の企業や研究施設の技術者や付近の大学教職員の子女を受け入れ、アメリカ同様の英語に
よる教育と台湾で生きるための教育を提供しました。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】半導体が私たちの身の回りのどのような製品に使われている のか、調べてみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】ファブレス企業について調べよう。身の回りのどのような商品がファブレス企業によって製造されているでしょうか。
- 【現地体験学習】科学園区から最寄りの新荘駅まで歩いてみましょう。技術者の子女が学ぶことができる国立のバイリンガルスクールや高層マンション群、関新路の新しい街並みを観察することで、「生活」面での外国在住の技術者を呼び込む仕組みを知ることができます。
参考資料
郭洋春、關智一、立教大学経済学部編『グローバリゼーションと東アジア資本主義』(日本経済評論社、2012年)の第7章、田畠真弓「台湾ハイテク産業のグローバル人的ネットワーク-2000年代前半までの技術導入期を中心に-」は参考になります。また、NHKのアニ
メ・ドキュメンタリー番組「島耕作のアジア立志伝・第二話」(2013年放送、NHKオンデマンドで配信中)もおすすめです。
- ウェブサイト
- 公式https://www.tsmcmoi.com/
- 所在地
- 新竹科学園区力行七路1号(台積創新館)
- 特記事項
- 予約:必要(英語と中国語のガイドを依頼可能) 人数制限:15人以内であればオンラインで予約、それを超える場合、電話(03)5636968またはEメール(service@tsmcmoi.com)で予約。 事前相談:15人を超える場合事前相談が必要 。