国立故宮博物院 助理研究員 王鉅元提供
國立故宮博物館
国立故宮博物院
台湾で堪能できる中華文化・芸術の精髄
台北の国立故宮博物院は、歴代の中華王朝が集めてきた美術品を主な展示品とする、世界的にも有名な博物館です。修学旅行生に限らず多くの観光客が訪れる、台北観光の目玉の一つと言える場所でしょう。山を背にする現在の壮麗な建物は、台北郊外の外双渓というエリアに位置し、1965年にオープンしました。4階建ての本館の1階から3階までが展示スペースとなっており、古代の青銅器や玉器、各時代の書画、陶磁器、文房具、書物などの名品が、いくつかの展示室に分け、豊富な解説を添えてずらりと並べられています。白と緑の翡翠で白菜を彫り込んだ「翠玉白菜」はとりわけ人気のある作品で、2014年には日本の東京国立博物館に出展され大きな話題となりました。なお、敷地内には歴史研究のための文献資料が閲覧できる図書文献館や、のどかな庭園である至善園もあり、また数百メートル離れた先には順益台湾原住民博物館があります。
学びのポイント
故宮博物院の見どころは?
故宮博物院には、中華文化・芸術の中でもとりわけ価値が高いとされる選りすぐりの作品が展示されています。絵画や書道を好む人や、ファッションやデザインに敏感な人、あるいは中華王朝の歴史に興味がある人であれば、何時間でも楽しむことができ、ただ歩き回るだけでも多くの学びを得ることができるでしょう。
中国美術の名品がなぜ台湾に集められているのか?
そもそも故宮博物院という名前の博物館は、中国で清朝が革命によって倒れ、新たに建国された中華民国時代の1925年に北京で成立しました。その収蔵品は、日中戦争期に戦火を逃れるため、北京を離れ中国南西地域へと移されました。さらに戦後、国共内戦により中国大陸から台湾へ移った中華民国政府は、故宮博物院の美術品をはじめとする貴重な文化財を選りすぐり、台湾へと運びました。
中華民国政府は共産党を倒して再び中国大陸に返り咲くつもりでいました。そのため当初はこれら美術品を大々的に公開する施設を造りませんでしたが、台湾で優れた中華文化が保護されていることをアピールするため1965年には現在の立派な博物館をオープンさせました。つまり、台北の国立故宮博物院は、中華民国政府が台湾で中華文化を保護していることの象徴として誕生したのです。敷地の入り口にあるアーチ門には「天下為公」の四文字が刻まれていますが、これは中華民国建国の父と位置づけられている孫文の言葉です。
中華民国政府は共産党を倒して再び中国大陸に返り咲くつもりでいました。そのため当初はこれら美術品を大々的に公開する施設を造りませんでしたが、台湾で優れた中華文化が保護されていることをアピールするため1965年には現在の立派な博物館をオープンさせました。つまり、台北の国立故宮博物院は、中華民国政府が台湾で中華文化を保護していることの象徴として誕生したのです。敷地の入り口にあるアーチ門には「天下為公」の四文字が刻まれていますが、これは中華民国建国の父と位置づけられている孫文の言葉です。
台湾にとって故宮博物院とは?
北京の故宮博物院は、中華人民共和国を建国した中国共産党が復旧させました。そのため、現在北京と台北に同じ名前の「故宮博物院」が並立しています。中国共産党は1950、60年代までは台湾に文化財が移されたことを非難していましたが、今日では台北の国立故宮博物院の存在を事実上黙認しています。
民主化が進んだ台湾では、2000年には国民党から民主進歩党への政権交代も起こったほか、近年は住民の間で「台湾は台湾であり中国の一部ではない」という考え方が強まっています。台湾で中華文化を象徴する国立故宮博物院は、今後どのような博物館として維持され、発展していくでしょうか。これは芸術文化、教育だけでなく、政治にも関わる複雑な問題です。
民主化が進んだ台湾では、2000年には国民党から民主進歩党への政権交代も起こったほか、近年は住民の間で「台湾は台湾であり中国の一部ではない」という考え方が強まっています。台湾で中華文化を象徴する国立故宮博物院は、今後どのような博物館として維持され、発展していくでしょうか。これは芸術文化、教育だけでなく、政治にも関わる複雑な問題です。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】中華民国はいつ、どのように建国され、どのような歩みをたどったか調べてみよう。
- 【現地体験学習】故宮博物院は「中華文化」をどのように展示しているのか、よく観察しよう。
- 【事後学習】故宮博物院は今後どのような博物館になっていくのか、現地での経験に基づきその将来像を考えてみよう。
参考資料
板倉聖哲・伊藤郁太郎『台北 國立故宮博物院を極める』(新潮社、2009年)は、故宮博物院が収蔵する美術品の魅力を分かりやすく伝えてくれます。故宮博物院の北京での成立から台北での開館までの歴史については、この本でもコンパクトにまとめられていますが、故宮博物院の公式ウェブサイトの日本語版(トップページ>故宮について>伝承と継続)を見ればもう少し詳しく、また近年の動きも含めて知ることができます。大陸時代の故宮博物院にまつわる歴史を論じた、日本語で読める近年の専門的な研究には、範麗雅『中国芸術というユートピア』(名古屋大学出版会、2018年)、張碧惠『中華民国と文物』(早稲田大学出版部、2019年)などがあります。家永真幸『国宝の政治史』(東京大学出版会、2017年)もよろしければご覧ください。
- ウェブサイト
- 公式https://www.npm.gov.tw/ja/ 交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=74 台北旅遊網(台北市政府観光伝播局)https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/737
- 所在地
- 台北市士林区至善路2段221号