薛化元主編、永山英樹訳

詳説台湾の歴史

台湾高校歴史教科書

(雄山閣、2020年)

TAIWAN bunko REVIEW

ナビゲーター

山﨑直也

台湾の人々の歴史認識を知る重要な手がかり

新興国の日本が「眠れる獅子」の異名を取る中国(清)を日清戦争で破り、最初の海外植民地として台湾島と澎湖諸島を手にしてから、第二次世界大戦で敗れてそれを手放すまで、約50年におよんだ日本の台湾統治をどう考えるべきか。リノベーションされて台湾各地に今も残る日本統治時代の壮麗な建築物や大規模なインフラ設備は、日本から台湾を訪れる人々の目に、日本が台湾の近代化に力を注いだ動かぬ証拠と映るかもしれない。しかし、これらの建築物やインフラ設備はそもそも何のためにつくられたのか、それは純粋に台湾の人々の生活を豊かにするためのものだったのか。日本の台湾統治は慈善事業などではなく、畢竟植民統治であったという根本に立ち返って考えてみる必要がある。これまでSNET台湾は、『臺灣書旅~台湾を知るためのブックガイド』所収の「日本統治時代をどう考えればいいのか?―『過去』を語る『現在』」(洪郁如)やYouTube『台湾修学旅行アカデミー』の「第12回 台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」(清水美里)、「第20回  台湾の歴史のみかた」(胎中千鶴)などのコンテンツを発信して、日本の台湾統治がもたらした「進歩」を過度に強調し、そこに台湾の「親日」の理由を見出す言説に疑問を投げかけてきた。しかし、近代化の事実を基に「日本はよいことも(を)した」と信じる人は今も多い。それでは、台湾の人々は、日本による統治をどのように認識しているのであろうか。それを知る上で有力な手がかりとなるのが台湾の学校で使われている歴史教科書である。三民書局から出版されている普通高校用の歴史教科書を翻訳した本書は、台湾の標準的な歴史認識がどのようなものであるかを我々に教えてくれる一冊だ。教育交流であれ、ビジネスであれ、台湾の人々と深く付き合うには、彼ら彼女らが日本統治時代を含む台湾の歴史について、何を、どのように知っているかを弁えておくことが良好な関係を築く基礎となるだろう。

起伏に富んだ台湾史を多角的に叙述

本書が描き出す「台湾の歴史」は台湾島の歴史を軸とするもので、オーストロネシア系先住民族を主役とする先史時代から国際競争を経てオランダ・スペインの統治を経験し、その後、いずれも外来政権である鄭成功一族、清朝、日本、中華民国が興亡を繰り広げる歴史が全11章で叙述される。日本統治時代は長い歴史の中のわずか半世紀に過ぎないが、第6章から第8章の3章を割いて詳しく述べられている。経済・社会の近代化を客観的に叙述する一方、日本による圧政と差別待遇についても語っており、台湾の人々が日本統治時代を多面的にとらえていることがわかる。この多面的な見方は、他の時代を語る上でも一貫しており、本書を一読することで、起伏に富んだ複雑さこそが台湾の歴史の最大の特徴であることが見て取れる。
現在の台湾の歴史教育では、「立足台湾、胸懐中国、放眼世界(台湾に立脚し、中国を心に掛け、世界に目を向ける)」という同心円理論が基調を成している。わかりやすいのが中学校の歴史教育だ。「社会」学習領域の中で、1年生で台湾史、2年生で中国史、3年生で世界史を学ぶが、台湾の学校で台湾の歴史を教えるようになったのは比較的最近のことである。戦後台湾の学校では中華文化を強調する政府の方針で台湾史が教えられず、中国史のみが「本国史」として教えられる状況が数十年にわたり続いた。これを打ち破ったのが1997年度から中学校1年生の必修教科となった「認識台湾(台湾を知る)」であり、その訳書が本書と同じ雄山閣から2000年に出版された国立編訳館編、蔡易達・永山英樹訳『台湾を知る―台湾国民中学歴史教科書』である。中学生向けと高校生向けというレベルのちがいはあるが、台湾史の歴史叙述が約20年でどのように発展したか、両書を読み比べてみるのもよいだろう。