「八田與一のダム」へ行く人の必読書
旅先で心地よく受け取れてしまう植民地遺産は、本質的には一種の困難な遺産である。大学で教えている身として、台湾への教育旅行の相談や感想を聞く機会が多いが、何度も台湾に通ううちに台北を離れて南へ―そして「八田與一のダム」に足が向く、という話をよく耳にする。そうしたとき、私が真っ先におすすめするのが本書である。
八田與一と烏山頭ダムの話がなぜ今日まで語り継がれ、どのように物語化されてきたのかを丁寧に追跡する。その魅力は、その語り口の読みやすさと、裏打ちされた学術的精度の両立にある。公文書、教科書、話題本、新聞をはじめ、記念施設、追悼儀礼を幅広く横断し、語りが成立する場と回路を立体的に見せてくれる。事例に寄り添う記述が導線とする物語分析は面白い。歴史を学ぶ人だけでなく、伝える立場の方、たとえば教育、メディア、観光分野の実務者にも直球で役立つ内容である。