屏東で栄えたたばこ産業を支えた工場(李佩儒撮影)

エリア
テーマ

屏菸1936文化基地

屏菸1936文化基地

かつての屏東たばこ工場で台湾のたばこ産業を学ぶ

気候と土壌に恵まれた屏東は、かつて台湾の主要なたばこ葉の産地の一つでした。日本統治時代、日本政府は台湾でたばこの専売を実施し、その生産は厳格に管理されていました。屏東たばこ工場は1936年に建てられ、屏東におけるたばこ葉栽培許可の発行から収穫、たばこの製造、在庫管理などの業務を一手に担っていました。戦後、たばこ工場を接収した中華民国政府は工場の拡張を進めましたが、国産のたばこ葉の需要が低下したことなどにより、屏東たばこ工場は2002年に操業を停止し閉鎖されました。2010年、屏東県政府は屏東たばこ工場の一部を歴史建築に登録し、大規模な修繕と活性化に着手しました。2020年、かつてのたばこ工場は、「屏菸1936文化基地」(「菸(えん)」は「たばこ」の意味)という文創空間に生まれ変わり、往時のたばこ産業の隆盛を今に伝えるたばこの博物館として人々の注目を集めています。

学びのポイント

台湾のたばこ産業と屏東たばこ工場

台湾にたばこが伝わったのは1620年代以降のことで、オランダ統治期に先住民族がたばこ葉を栽培していたという記録があります。当時、中国や南洋から台湾に持ち込まれたたばこの種の多くは、自家用あるいは市場での取り引きのために栽培されました。清朝統治時代の19世紀末に中国産およびルソン産のたばこの種が導入されたことで栽培が盛んになり、台湾はたばこ葉の産地として名を馳せ、中国に輸出するまでになりました。日本統治時代の1905年に、たばこは台湾総督府の専売品となります。台湾総督府はたばこ葉の栽培を許可制とし、品種、場所、農法、生産者、生産量を管理しました。1936年に建てられた屏東たばこ工場は、元は「専売局屏東支局葉煙草再乾燥場」という名称で、屏東でのたばこ葉の栽培指導、収穫と買い付け、製造、在庫管理などの業務を請け負いました。 戦後、中華民国政府が専売制度を引き継ぐと、1949年に「台湾省菸酒公売局屏東菸葉加工廠」と改称され、種子の分配、買い取り、製造、在庫管理など、高雄・屏東地域の契約たばこ葉農家に関わる業務を担うことになりました。業務量の増加に対応するため、工場の区画は4.2ヘクタールまで拡張されました。たばこ工場は買い取ったたばこ葉を乾燥、除骨(葉たばこを葉肉と葉脈に分離する作業)、再乾燥などの工程によって刻みたばこに加工して貯蔵し、さらに全国各地の工場に送って紙巻きたばこに仕上げます。2002年に台湾がWTOに加盟すると、たばこと酒の専売制度は廃止されました。同年、屏東たばこ工場が閉鎖され、その後も、政府によって喫煙への規制や対策が講じられたり、海外からのたばこ輸入が解禁されたりしたことで、たばこ葉の国内生産量は減少していきます。2017年、台湾菸酒公司(旧たばこ・酒専売局)はたばこ葉の契約栽培を終了、台湾のたばこ葉生産はその歴史に幕を閉じました。

たばこ工場から文化基地へ

屏東たばこ工場の閉鎖から20年間、屏東県政府は工場区域内の建築物を段階的に歴史建築に登録し、文化基地にリノベートしました。各界の注力で、かつての屏東たばこ工場は「屏東たばこ館」に生まれ変わりました。常設展はたばこ葉の加工工程を軸に構成され、除骨、再乾燥などの工程を間近に見ることができます。また、音と光の演出で工場全体をインスタ映えする空間につくり上げています。館内ではインタビュー映像が放映され、たばこ葉農業と工場職員の仕事をさらに深く知ることができます。この他、客家館、原住(先住)民族館といった施設もあり、芸術品の展示と没入型体験施設を通じて、より深く広く屏東を理解できます。

かつての工場をインスタ映えする空間に変える光の演出(李佩儒撮影)


台湾文化の中のたばこ

台湾の社交文化に「敬菸」「奉菸」と呼ばれる伝統があります。「敬菸」は、人の集まりの中でたばこを吸いたくなった人がたばこの箱を差し出し、その場にいる人に「誰か吸いたい人はいませんか」と尋ねる社交行為で、通常は年少者が年長者のたばこに火をつけます。「奉菸」は、結婚式などの場で招いた側が来賓にたばこを提供することです。かつては喫煙者の多くが男性であったため、たばこを通じた社交は、今でも主に男性間で行われています。たばこは宗教活動の供物としても用いられます。日本の軍人を祀る飛虎将軍廟では、毎日、廟祝(廟で線香などの火の気のあるものを司る人)がたばこに火をつけてお供えしています。高雄の平埔族(平地で暮らす民族の総称)であるタイボアン族の夜祭でも、酒、たばこ、檳榔(ビンロウ)を供物として祭祀を行います。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】日本、台湾、その他の国々のたばこ専売制度とたばこに関する文化について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】参考書籍とウェブサイト欄のJT、たばこと塩の博物館のサイトで紹介されているたばこの製造工程と工場で展示されている工程を比べてみましょう。
参考資料
たばこの生産過程については、JTのウェブサイトたばこと塩の博物館のウェブサイトで詳しく紹介されています。井上裕太「台湾・屏東縣の煙草工場『屏東菸葉廠』の産業遺産としての活用をめぐる考察」(『博物館学雑誌』第42巻第2号、2017年4月、99-110頁)は、このスポットを事例として、台湾における産業遺産の活用を論じています。また、たばこと同様、台湾総督府の専売品となった樟脳については、平井健介『日本統治下の台湾―開発・植民地主義・主体性』(名古屋大学出版会、2024年)が参考になります。

(李佩儒)

ウェブサイト
公式 https://www.cultural.pthg.gov.tw/pt1936/Default.aspx

(中国語・英語)

文化部 https://www.moc.gov.tw/jp/News_Content2.aspx?n=347&s=182818

所在地
屏東県屏東市菸廠路1号

特記事項
日本語音声ガイドサービス
団体ガイドツアー(中国語)は、こちらのフォームで事前予約が必要です。
※20歳未満の喫煙は法律で禁止されています。