「省エネ、温室効果ガス削減は社会の責任」(李佩儒氏提供)
展示館は第3原子力発電所の近くにある(李佩儒氏提供)
台電南部展示館
台湾電力南部展示館
社会問題となっている原発の隣で台湾の電力事情を知ろう
台湾電力南部展示館は台湾の公営電力企業である台湾電力公司が運営する企業博物館です。第3原子力発電所の近くにあり、屋外からは原発建屋も見えます。主に電力を中心としたエネルギーについて学ぶ展示があります。私たちの日々の生活は多数の電気製品や電子機器によって支えられておりが、それらを利用するには電力が必要です。暗い夜に活動できるのも電気のおかげです。その「当たり前」を生む電気にはさまざまなつくり方があり、つくり方によっては環境破壊を引き起こしたり私たちの生活に影響を及ぼしたりすることも忘れてはなりません。日本と同じように天然のエネルギー資源が少ない台湾では、どのように電力をつくり、発電方法をめぐってどのような議論が行われてきたのか、展示を通して考えてみましょう。なお、新北市にある第2原子力発電所(運転期間満了で停止中)の隣接地には台湾電力北部展示館があります。
学びのポイント
台湾の電力事情
日本と同じく天然のエネルギー資源に乏しい台湾では、海外から化石燃料を輸入して発電してきました。この展示館では、発電の仕組みや送電について基礎から学んだうえで台湾電力がどのような燃料で発電しているかを学べます。
台湾では火力発電が約8割を占めています。その主な燃料は海外から輸入した石炭や天然ガス(LNG)です。近年は温室効果ガスの排出量を削減することが世界的な課題であり、台湾でも対応が進められています。具体的には火力発電の中でも排出量が相対的に少ないLNGによる発電や、風力などの再生可能エネルギーによる発電の割合を増やそうとしています。
ただし、再生可能エネルギーは発電量が不安定で、停電のリスクが高いなどの課題も指摘されています。特に安定した電力供給を求める産業界から検討すべきとの声が強くあります。そのような状況で、台湾電力公司が電力会社として、どのような展示を通じて何を来館者に伝えようとしているのかは注目ポイントのひとつです。
第3原子力発電所
台湾電力南部展示館が設置された目的のひとつは、付近にある第3原子力発電所をはじめとする原子力発電への理解を促進することでした。しかし、台湾では脱原発の流れが進み、2018年から順次原発の閉鎖が始まりました。第3原子力発電所は台湾では最後まで稼働されましたが、2025年5月に停止しました。
しかし、台湾世論が必ずしも原発廃止に全面賛成というわけではありません。安定的な電力供給を求める産業界を中心に、原発を再稼働すべきであるとの意見もあり、第3原子力発電所再稼働の是非を問う国民投票が行われたこともありました。
台湾電力南部展示館には原子力発電に関する展示が多くあり、原発の稼働が停止している現在でも来館者に原子力エネルギーについて理解してもらう役割を果たしています。電力会社として原発にどのような姿勢で臨んでいるのか、原発をめぐる台湾社会での議論を予習したうえで展示を見て回ると理解がより深まるでしょう。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】日本と台湾の電源構成(電力をつくるエネルギーの種類)を調べて比較してみましょう。可能であれば日本で電力会社が運営する展示館などに行ってみましょう。
- 【現地体験学習】台湾の発電方法や送電システム、原子力発電への理解を深めましょう。
- 【事後学習】原子力発電をめぐる問題やエネルギー政策について日本と台湾を比較して考えてみましょう。
参考資料
台湾の環境とエネルギーに関する基本的な文献として、陳威志「環境とエネルギー―非原子力からカーボンニュートラルへ」(赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための72章【第2版】』明石書店、2022年)があります。日本貿易振興機構(JETRO)が「台湾の脱炭素に向けた方針と政策」というレポートをまとめ、2024年までの台湾の電力事情やエネルギー政策の動きについて知ることができます。
現在の台湾電力は日本統治期に整えられた電力産業を引き継いでいます。その当時の電力産業の形成については、専門的ですが湊照宏『近代台湾の電力産業――植民地工業化と資本市場』(御茶の水書房、2011年)に詳しい記載があります。戦前から戦後の経済成長期にかけての電力事業については、北波道子『後発工業国の経済発展と電力事業: 台湾電力の発展と工業化』(晃洋書房、2003年)があります。
- ウェブサイト
- 公式
https://www.taipower.com.tw/2289/2290/2308/2310/3456/normalPost
(中国語)
- 所在地
- 屏東県恒春鎮後壁湖路96巷33号
- 特記事項
- 月曜日は休館
