総統府の裏にたたずむ歴史と記録を未来へつなぐ拠点(五十嵐隆幸撮影)
國史館
国史館
「国家の記憶」を伝える歴史アーカイブ
国史館は、歴史資料の保存・研究を担う国の機関です。日本の国立公文書館にあたる場所で、中華民国政府の公文書(档案)や歴代総統・副総統に関する資料が収蔵されています。見学者に人気があるのが、蔣介石から現在に至るまでの歴代総統・副総統に関する展示が行われている「総統副総統文物館」です。館内には、外交贈呈品や総統選挙の関連資料、執務机や衣装など、台湾の政治史を実感できる展示が並んでいます。建物自体も古典的な西洋建築と現代的な建築が融合した魅力があり、市定古蹟になっています。日本統治時代には「総督府交通局遞信部」として使われていた建物で、歴史的価値も高く、建物を眺めるだけで過去と現在の対話を感じることができます。
学びのポイント
総統と副総統の歩みを知る展示
国史館の最大の見どころは、歴代総統と副総統に関する展示です。蔣介石から現職総統に至るまで、それぞれの時代の政治的課題や社会背景を映し出す資料が紹介されています。実際に使用された執務机や衣装、選挙運動に用いられたポスター、外交上の訪問時の写真や贈答品などが、かつてのリーダーたちを身近に感じさせてくれます。政治を難しい制度と表すのではなく、「人の判断や選択が歴史を動かす」という実感をもたらしてくれる点が大きな特徴です。展示を通じて「社会に求められるリーダー像とは」という問いを考えることは、高校生・大学生にとって自分自身の将来像を見つめ直す良い機会となるでしょう。
身近な題材から台湾と国際社会のつながりを感じる特別展
国史館では常設展示に加え、館蔵資料を活用した多彩な特別展が行われてきました。例えば「球之声」展では、野球に関する档案や写真、歴代総統の祝電などを通して、台湾社会と野球文化の深い結びつきが紹介されました。また「19個小観茶」展では、台湾茶の歴史的発展と、総統や副総統に贈られた茶関連の贈呈品を結びつけ、茶文化がいかに国際交流の象徴となってきたかを示しました。こうした展示は、スポーツや食文化といった身近な題材を切り口に、台湾が世界とつながってきた歴史を体感させてくれます。特別展の内容は時期によって変わりますが、どれも台湾の歴史と社会の奥行きを感じさせる学びの機会となるのです。
日本統治期の広告が伝える台湾茶の国際的魅力(五十嵐隆幸撮影)
建物と档案(一次資料)が語る歴史
国史館の建物自体も学びの対象です。日本統治時代には「台湾総督府交通局逓信部」として利用され、戦後は台湾の「国の記憶」を守る拠点となりました。古典的な西洋建築と現代的な増築部分が融合したデザインは時代の移り変わりを象徴しており、台北市市定の古跡になっています。膨大な档案(公文書)は新北市の新店に収蔵されていますが、台北市の国史館では台湾の政治史・社会史・外交史・女性史をデジタル資料で確認できます。観光客が直接档案を閲覧する機会は少ないでしょうが、「できごとをどのように記録し、後世に残すか」という視点は、日常のノートやSNSの記録にも通じます。建築の歴史と档案の意義をともに理解することで、国史館は単なる展示施設ではなく、歴史と現在をつなぐ生きた教材となるのです。
档案の原本は新店に保存、台北ではデジタル資料を閲覧可能(五十嵐隆幸撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾の歴代総統を年代順に整理し、それぞれの時代の国内外の課題をまとめてみましょう。
- 【現地体験学習】特別展または外交贈呈品から気になるものを一つ選び、その国との関係を調べてみましょう。
- 【事後学習】国史館で見た展示や資料から「歴史を未来に伝えるために必要なことは何か」を考えてみましょう。
参考資料
2005年当時に館長だった張炎憲氏が日本台湾学会第7回学術大会で記念公演を行い、国史館を軸に台湾における「国史」の意味の移り変わりについて述べています。その記録が同学会の学会誌に掲載されています(張炎憲「日本台湾学会第7回学術大会記念講演 国史館と台湾史研究」『日本台湾学会報』第8号、2006年、129-135頁)重要な資料である『蔣介石日記』および『蔣経国日記』が米国スタンフォード大学フーバー研究所から国史館に「返還」された経緯とその意義についてが、川島真「蔣介石・蔣経国日記などの国史館への「返還」とその意義」(『歴史評論』第896号、2024年、76-86頁)に詳しく書かれています。
- ウェブサイト
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公式https://www.drnh.gov.tw/
(中国語・英語)
- 交通部観光署https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003016&id=A12-00329
- 台北市政府観光伝播局https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/917
- 所在地
- 台北市中正区長沙街一段2号
- 特記事項
- 展示は入場無料。団体見学は事前予約を推奨。
