水と緑がにぎやかな街に憩いをもたらす(山﨑直也提供)

エリア
テーマ

松山文創園區

松山文創園区

たばこ工場からデザイン・クリエイティビティの発信地へ

松山文創園区は、1939年に建てられた台湾総督府専売局松山煙草工場の跡地を活用した文化創造施設です。この工場は日本統治時代から戦後にかけて、約60年操業しました。約18ヘクタールという広大な敷地で、最盛期には2000人もの労働者が働く大規模施設でした。1998年に工場でのたばこ生産が終了した後、南側にあった社宅などは撤去され、現在は「台北大巨蛋(台北ドーム)」が建っています。北側の工場跡などは、2001年に市定古蹟になり、2011年に松山文創園区として開場しました。施設内には台湾設計研究院をはじめ、台湾設計館、不只是図書館(Not Just Library)などが入居し、デザインの研究・開発拠点として機能しています。また、アートやデザイン関連商品の展示や販売、各種イベントが開催される多目的空間として活用されているほか、敷地北側の台北文創ビルには、24時間営業の誠品書店が入居しています。かつての台湾を財政的に支えた工場は、現在、台湾のデザインとクリエイティビティの中心地として新たな役割を担う施設となっています。

学びのポイント

台湾を支えたたばこ工場

SNET台湾「みんなの台湾修学旅行ナビ」には、台湾の「専売」に関わる施設が複数紹介されています。専売制度とは、国家が財政収入を増加、安定させるため、塩・酒・たばこなど、特定物資の生産・流通・販売を独占するしくみのことです。日本では主に塩とたばこで専売制が導入され、日本の統治下にあった台湾でも導入されました。台湾総督府には専売局が設置され、アヘン、樟脳、塩、たばこ、酒などを独占的に製造販売しました。専売制度で得られた利益は、多額の費用を必要とする台湾統治を財政的に支えました。  台湾におけるたばこの専売制度は1905年に始まり、製造工場が台北駅の北側に設けられました。その後、台湾でのたばこ消費量の拡大に伴い、消費量が最も多い両切り紙巻きたばこ専用工場の設置が計画されました。これが台湾総督府専売局松山煙草工場で、1939年に竣工し、たばこの製造が始まりました。その後、日本の敗戦により、台湾総督府専売局と各工場は台湾省行政長官公署専売局が引き継ぎ、たばこ・酒などは政府が製造販売する制度が続けられました。しかし、戦後の経済的な混乱の中で、たばこの品質も低下、また価格の上昇もあって、私製または密輸された闇たばこが広がります。専売局は、こうした闇たばこの流通販売を摘発していましたが、その過程で二二八事件が発生することになりました。事件の後、専売局は台湾省菸酒公売局に改組され(「菸」は「たばこ」を指す)、台湾のWTO加入に伴って専売制度が廃止された2002年まで、政府によるたばこの製造販売が続きました。松山煙草工場は松山菸廠と改称されて、1998年まで操業していました。

最先端のたばこ工場

松山煙草工場は、かつて敷地約18ヘクタールを誇り、操業開始時には、周辺に鉄道部の台北工場(後の台北機廠、現:国家鉄道博物館)や、台湾電力の修理工場なども設置され、一帯は台北郊外の工場地帯として発展が始まりました。いずれも当時としては最新の設備を誇る大規模な工場でした。松山煙草工場は二階建て鉄筋コンクリート造りで、工場のほかに事務棟や倉庫、ボイラー室などが設けられました。工場は「日」の字型に配置され、中庭には木々や噴水が配置されました。モダニズム様式に見られる過度な装飾性は排除しながら、水平ラインを強調し、大きな窓と細部に装飾を配したデザインは、ほぼ同時期に建設された鉄道工場と共通していますが、より繊細な雰囲気が感じられます。かつては年間20億本の生産能力をもち、2000人もの労働者を抱えた工場には、宿舎や食堂など、生活に必要な施設も設けられ、「工業村」とも呼ばれました。

修復されたたばこ工場の建物(山﨑直也提供)

デザインとクリエイティビティの中心地

台湾の高度経済成長とともに、台北市の人口は増加し、次第に中心市街地が拡大し、再開発計画が提案されます。国父紀念館の北側にあった松山煙草工場も、こうした再開発計画の中心に据えられることになります。また、100年近く続いたたばこの専売制度も、台湾のWTO加入に伴って廃止され、市場開放が決まります。こうした情勢の中、たばこの生産設備を台北郊外の工場に移設することが決まり、1998年に松山でのたばこ生産は終了します。台北市はドーム球場の建設予定地として松山煙草工場跡を指定しましたが、土地建物の所有権を持ち、工場跡の保存に積極的な国との間で対立が生じます。結局、2001年に台北市は工場や事務棟などを市定古蹟に指定する一方で、宿舎など一部施設の撤去とドーム球場建設を決定、国もこの計画に同意します。ドーム球場建設によって伐採される樹木の保護を訴える市民運動も展開されましたが、2023年に台北ドームが開業しました。一方、保存された工場や事務棟などは、修復の後、2011年に松山文創園区として開業します。こちらは台北市文化基金会の管理運営によるもので、デザインの研究・開発を行う台湾設計研究院と付属施設(台湾設計館、不只是図書館)などが入居するほか、アートやデザインに関する商品の展示や販売、イベントが行える空間として広く活用されています。また、かつての倉庫は一部が解体され、跡地には2013年に日本人建築士・伊東豊雄の設計による台北文創ビルが建設されました。台北文創ビルは台北文創開発によって管理運営され、主要テナントとして誠品書店を中心とする誠品生活松煙店が入居しています。

かつてのボイラー室はおしゃれなカフェに(山﨑直也提供)

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】台湾で発達する「文創」について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】たばこ工場の建築や構造上の工夫について考えてみましょう。
  • 【現地体験学習】松山文創園区の周辺環境について調べてみましょう。
参考資料
台湾における歴史建築のリノベーションと活用については、東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室編『台湾における近代化遺産活用の最前線』(独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所、2020年)が参考になります。日本統治下の台湾における専売制度については、平井健介『日本統治下の台湾―開発・植民地主義・主体性―』(名古屋大学出版会、2024年)で樟脳の事例を論じています。

(松葉隼)

ウェブサイト
公式https://www.songshanculturalpark.org/

(中国語・英語)

交通部観光署https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003016&id=A12-00114
台北市政府観光伝播局https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/879
所在地
台北市信義区光復南路133号

特記事項
20歳未満の喫煙は法律で禁止されています。