フォリー像(福田栞撮影)
植物園を彩る蓮の花(福田栞撮影)
台北植物園
台北植物園
台湾植物研究の歴史を物語る緑豊かな都市のオアシス
現在農業部林業試験所の管轄にある台北植物園は、日本統治時代の1896年に苗木や苗草の育成を行う「台北苗圃」として設立されました。1921年に現在の名称に改称され、林業研究施設として発展しましたが、戦時中は管理が中断され樹木のほとんどが枯死しました。戦後、林業試験所が管理者となって再整備を行い、現在では8.2ヘクタールの園内に2000種を超える植物を収集・栽培する台湾の植物研究と教育普及の重要拠点となっています。園内には1924年設立の台湾初の植物標本館「腊葉館」と、1933年に移築された清朝時代の迎賓館「欽差行台」があり、どちらも台北市の歴史的建造物に指定されています。春にはヤマザクラやノイバラなどのバラ科の花が、夏には蓮池に淡紅色のハスが咲き誇ります。秋にはタイワンフウに着生したハカマウラボシが黄金色に色づき、冬にはピラカンサスやアカギになった赤い実を目当てにヒヨドリなどがやってきます。一年を通じて多くの見物客や撮影者で賑わい、市民の憩いの場にもなっています。
学びのポイント
「台湾植物学の父」早田文藏とは?
早田文藏(1874〜1934)は新潟県出身の植物学者です。東京帝国大学(現・東京大学)在学中から台湾の植物研究に勤しみ、1906年には「タイワンスギ」の発見と命名によって世界的に注目されます。その後も長年にわたって台湾総督府から依頼を受け、植物の採集と命名を行いました。1911年から1921年まで出版が続いた『台湾植物図譜』(全10巻)には、全3658種が収録されており、早田によって記録された植物は2300種にものぼります。こうした早田の業績は、今日の台湾において、台湾植物研究の基礎を築いたと評価されています。早田の死後の1936年に、植物園内に北村西望がレリーフを、井手薫が台座を設計したと伝わる記念碑が建てられましたが、戦争のさなかに失われました。一方、早田は生前、彼に先んじて台湾の植物採集に尽力したフランス人宣教師フォリー(Faurie:1847〜1915)の偉業をたたえる銅像を建てており、その原型が2012年に関係者宅から発見されました。それを契機として、早田像とフォリー像はいずれも2017年に再建され、植物園内に再展示されることになりました。これらの野外彫刻からは、台湾の植物研究が外来者の技術や視点を借りつつ形成されてきた歴史をうかがい知ることができます。
台湾の植物研究と美術作品
台湾の植物研究は、日本の植民地時代に「南国」の理想的な都市景観をつくるためにも応用されました。1896年に台北植物園の前身にあたる台北苗圃、また1902年に屏東の恒春に熱帯植物殖育場が設立されると、台湾総督府の技師・田代安定(1857〜1928)は植民地開発にあたって重要とされた植物の栽培や繁殖を始めます。その成果は、台湾各地の街路樹に現れ、徐々に植えられた街路樹は、しだいに「台湾らしい」風景の一部として、人々の心象風景に刻まれていきました。そして、台湾特有と考えられた植物は、台湾に長年滞在した日本人美術家にとって新しい画題となり、さらには、台湾と日本内地の間で揺れ動く自らの存在や立ち位置を投影するものでもありました。日本統治時代の台湾で活躍した画家・美術教育者の郷原古統(1887〜1965)は、台北の名所のひとつに台北植物園を選び、鮮やかな色彩を用いて丁寧にその情景を描きました(郷原古統《台北名所図絵十二景》、1920年代後半、台北市立美術館蔵)。郷原が第一回台湾美術展覧会(台展)台湾美術展覧会(台展)に出品した《南薫綽約》(1927年、個人蔵)は、鳳凰木やゴールデンシャワー、山娘などの台湾の樹木や鳥を画題とする花鳥画でした。一方で彼は、勤務先の台北第三高等女学校の生徒を連れて植物園を訪れ、写生を行わせました。彼の指導を受けた生徒の作品が台展に入選するケースもありました。台湾の植物研究の発展と美術への活用が、台湾の文化活動を豊かにした事例として挙げることができます。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾固有の植物について調べてみましょう。
- 【現地体験学習】植物園内にある植物を一つ選び、情報を記録しましょう。また自分の目で観察して写生してみましょう。
- 【事後学修】記録した情報と写生した絵を、植物図鑑と対照させて確認してみましょう。
参考資料
文中に登場する早田文藏およびフォリー神父については、装幀が素敵な大場秀章『早田文藏Bunzo Hayata』(行政院農業委員会、2017年)、および李瑞宗著・宍倉香里訳『フオリー神父Pere Urbain Jean Faurie』(行政院農業委員会、2017年)に記述があります。また台北植物園の公式ウェブサイトには日本語の施設案内も掲載されており、ダウンロードが可能です。
- ウェブサイト
- 公式
https://tpbg.tfri.gov.tw/index.php
(中国語・英語)
- 交通部観光署 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=R137
- 台北市政府観光伝播局 https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/910
- 所在地
-
台北市中正区南海路53号
- 特記事項
