1960年代末に撮影された、鄧南光本人が写っている写真(魏逸瑩撮影)
鄧南光影像紀念館外観(魏逸瑩撮影)
鄧南光影像紀念館
鄧南光影像紀念館
台湾のリアリズム写真を牽引したパイオニア鄧南光
鄧南光影像紀念館は、台湾写真界のパイオニア、鄧南光(とう・なんこう、1908〜1971)の卓越した功績を記念して設立された施設です。建物は1926年に建てられた新竹県北埔郷初のRC造(鉄筋コンクリート造)建築で、鄧氏一族の旧宅です。かつて敷地内で柑橘類が栽培されていたことから「柑園」とも呼ばれていました。戦後の一時期は、鄧南光の甥の鄧世源が開設した「世源医院」として使用されました。2006年に新竹県の歴史建築に指定され、2009年に正式に台湾初の写真をテーマとする地域文化館として一般公開されました。館内では、鄧南光の生涯や作品、暗室での現像技術、使用カメラなどを紹介する常設展示があるほか、定期的に企画展も開催されています。
学びのポイント
鄧南光とは?
鄧南光の本名は鄧騰輝、日本名は吉永晃三で、新竹県北埔郷の客家系地方名家の出身でした。1924年に日本へ留学し、10代からコダックカメラを購入して写真に興味を持ちました。進学した法政大学経済学部でカメラ部に所属して新興写真運動に触れ、中古のライカカメラを入手して本格的に撮影活動を始めます。1932年、日本の写真雑誌『カメラ』に作品が入選し、全関東学生写真連盟のメンバーとなりました。1935年に台湾に帰ると台北で「南光写真機店」を開業し、北台湾で庶民の生活や民俗、都市街景を撮影して日本統治時代の台湾社会の貴重な記録を残しました。やがて戦争が起こると、戦時中でも撮影活動を続けたかったため、1944年に「台湾総督府登録写真家」となりました。戦後の1946年には「南光照相機材店」として写真機店を再開し、李火増らとともに台湾戦後初期の写真同好会「ライカ倶楽部」を設立しました。1948年の『台湾新生報』写真コンクールでは張才が1位、鄧南光と李鳴鵰が2位となり、3人は「シャッター三銃士」と称されました。その後、数多くの写真コンテストの審査員を務め、1963年には台湾全土の写真家団体をめざして台湾省撮影学会を設立、初代理事長として台湾写真界を牽引しました。亡くなる1971年まで7期連続で理事長を務め、台湾におけるリアリズム写真の普及と発展に大きく貢献しました。
新興写真運動の影響
鄧南光はかつてこう述べています。「芸術は時代を啓示すべきものであり、新しい芸術様式は『動的』『写実的』『実用的』であるべきで、従来の『静的』『人為的』『装飾的』なものとは一線を画すべきだ」と。こうした彼のリアリズム写真の理念は、1930年代の日本で起こった新興写真運動に共鳴して形成されたものです。この運動はドイツの新即物主義(ノイエ・ザッハリヒカイト)に端を発し、従来の絵画主義的なピクトリアリズムから脱却し、カメラの機械性と感光材料の特性を活かした新しい写真表現を提唱しました。この運動の中で、鄧南光は特に2人の写真家から大きな影響を受けました。1人はドイツの写真家パウル・ヴォルフ、もう1人は日本の写真家木村伊兵衛で、両者とも1930年代にライカを使用して卓越した撮影技術を示した先駆者でした。
故郷の北埔の風習・民俗を撮影した鄧南光の写真展示と解説(魏逸瑩撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】鄧南光の写真作品を観察し、彼がどのようにリアリズムを表現したか考察してみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】日本の新興写真運動の前後で、写真の表現はどのように変化したのでしょうか。
- 【現地体験学習】紀念館で見た鄧南光が撮影した北埔の風習・民俗写真と、実際に北埔の街を歩いて見た現在の北埔では、どのような変化が見られるでしょうか。
参考資料
鄧南光の生い立ちについては、栖来ひかり「台湾人写真家が撮った戦前の東京 時代の肩越しにシャッターを切った 鄧南光のまなざし」『東京人』2022年3月号、中村加代子「「日本」と「台湾」を生きた写真家・鄧南光の生涯/朱和之『南光』〈アジア文芸ライブラリー〉(中村加代子訳)」『web春秋 はるとあき』(春秋社、2024年)、「日本統治時代の台湾に生まれた写真家・鄧南光の生涯」『じんぶん堂』(春秋社、2024年)に紹介があります。また、小説家の朱和之が鄧南光を題材に執筆した歴史小説『南光』(中村加代子訳、春秋社、2024年)もおすすめです。この小説は2020年に台湾でロマン・ロラン百萬小説賞を受賞しています。なお、鄧南光の作品は、中央研究院の数位島嶼「鄧南光」や国家撮影文化センターの「鄧南光 戦後底片印様選」オンライン展覧会で閲覧できます。
- ウェブサイト
- 公式FB
https://www.facebook.com/nicole981129
(中国語)
- 所在地
-
新竹県北埔郷公園街15号
- 特記事項
- 土日の午前・午後各1回、無料ガイドツアーあり。各回最大20人。団体の場合は、電話で予約できます。展示はすべて中国語で表記されています。
