屏東県の古跡にも認定されている万金聖母聖殿の礼拝堂(藤野陽平撮影)
萬金聖母聖殿
万金聖母聖殿
南部屏東の郊外に位置する台湾最古の教会
万金聖母聖殿は、台湾に数あるキリスト教の教会の中でも現存最古の教会建築です。高雄市内から車で1時間ほどかかる交通の便の悪いところにあります(公共交通機関で行くのはとても大変なので、台湾鉄道の竹田駅か潮州駅からタクシーを利用することをお勧めします)。清朝期に台湾に建てられたキリスト教の教会で現存するのは、ここと長老教会の淡水教会だけです。淡水教会は宣教師が上陸した港のすぐ近くにあるのに対して、万金聖母聖殿はかなり奥地に位置します。非常に珍しい建造も特徴的です。
学びのポイント
台湾最古にして高い評価を受ける教会
万金聖母聖殿は清朝期の咸豊11(1861)年に、カトリックのドミニコ会が設立しました。当初、建物はなく、1863年5月に初めて礼拝堂を建築します。しかし、1865年の地震で倒壊してしまったため、1869年に現在の場所の土地を購入し、翌1870年に現在の会堂が完成しました。1874年1月12日には清朝の同治帝から「奉旨」「天主堂」と刻まれた石碑・聖石を贈られます。これは皇帝の許可を意味するもので、権威の象徴でもありました。1984年には教皇ヨハネ・パウロ2世から「バシリカ」に認定され、名前を「万金聖母聖堂」から「万金聖母聖殿」へと改めます。バシリカとはカトリックにおいて特別に価値の高い教会建築に贈られる称号で、近年ではスペインのサグラダ・ファミリアが2010年にバリシカになっています。1984年に内政部は、この建築を屏東県文化貴産三号三級古蹟に認定しています。
建築、空間の特徴
白壁が特徴的な万金聖母聖殿は、幅約13メートル、奥行き約35メートル、高さ約7.5メートル、バシリカ式の礼拝堂です。「西正面」、「中央礼拝堂」、「東面聖壇」の3つの部分からなり、礼拝堂は柱で中殿と回廊が分けられています。1960年と1982年に改修されて建築の細部は新しくなっていますが、基本的な構造は1870年の姿を維持しています。「奉旨」「天主堂」の聖石は礼拝堂正面入り口の上に今も見ることができます。礼拝堂の周りは聖母公園として広々とした空間になっています。徒歩で10分強、車で5分ほどのところに「萬金聖母聖殿墓園」という墓地があり、この教会にゆかりの神父やシスター、信徒たちが永遠の眠りについています。
厳かな空気が漂う礼拝堂の内部(藤野陽平撮影)
聖母マリアのパレード
万金聖母聖殿の特徴は歴史と建築様式だけではありません。毎年12月の第1または第2日曜日に聖母マリア像を神輿に載せてパレードが行われます。パレードで使われる神輿「聖母轎(聖母の神輿) 」は1876年にスペインから贈られたもので、今でも大切に使われています。パレードではマリア像を載せた神輿の前を、各地から集まったカトリックの信徒たちが祈りながら歩くほか、イエスやマリア、聖人たちの像を載せた車、楽器を演奏する人々、天使の格好をした子供たちなど、さまざまなチームが練り歩きます。見物客も多く、地域の人々が爆竹や打ち上げ花火でパレードを迎える姿は、民間信仰のお祭りを思わせる独特なものです。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾のカトリックの歴史について調べてみましょう。カトリックの総本山バチカンはヨーロッパで唯一、中華民国(台湾)と国交をもつ国です。それはなぜでしょうか。中華民国とバチカンとの関係の歴史を調べて考えてみましょう。
- 【事前学習】台湾のカトリック教(天主教)とプロテスタント(基督教)には、どのような差があるか調べてみましょう。
- 【現地体験学習】教会でミサが行われていたら、邪魔にならないように注意しながら参加してみましょう。行われていなければ、聖堂の中で椅子に座り、しばらく静かに過ごしてみましょう。
- 【現地体験学習】『台湾宗教百景』の「万金聖母聖殿・聖母パレード」のページには建築の特徴が紹介されています。それを参考に、建物の写真を撮ってみましょう。また、パレードのルートも紹介されていますから、聖母マリアの神輿を担いでいる気持ちで歩いてみましょう。
- 【事後学修】台湾の道教や民間信仰でも神様を神輿に載せて練り歩くパレード(遶境)がよく行われます。また、世界的にも聖母マリアのパレードが行われます。万金聖母聖殿の聖母マリアのパレードと民間信仰のパレード、世界的な聖母マリアのパレードを比較してみましょう。
- 【現地体験学習】万金聖母聖殿の位置する万巒郷には先住民族や客家が暮らす村が点在します。万巒郷のエスニックグループにはどのような文化があるのか調べてみましょう。
参考資料
台湾のキリスト教については、大國督編『臺灣カトリツク小史』(台北杉田書店、1941年)、岡田紅理子『道をむすぶ 時をたがやす―台湾原住民族アミ・カトリック信者の近現代誌』(春風社、2025年)などが参考になります。『台湾宗教百景』の「万金聖母聖殿・聖母パレード」のページでは教会の概要に加え、聖母マリアのパレードのルートを知ることができます。
- ウェブサイト
- 交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003122&id=466
- 所在地
- 屏東県万巒郷万興路24号
- 特記事項
- 万金聖母聖殿はキリスト教の教会です。礼拝やミサが行われたり、その他の活動をしていたりする時があります。参観する際には、聖壇のように立ち入りが禁止されている場所に入らない、露出の多い服装、半ズボン、サンダルなどを避ける、聖堂内では静粛にし、飲食をしないなど、迷惑にならないように心がけましょう。
