済南教会外観(藤野陽平提供)

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台灣基督長老教會濟南教會

済南教会

様々な出自の人が行き交う台湾の民主化を支えた教会

赤レンガ造りの重厚な佇まいと塔のような鐘楼が特徴的な、日本統治期に建てられたゴシック様式のキリスト教会です。礼拝堂内は美しい白壁で、赤い外壁とのコントラストが印象的です。装飾にもこだわりがあり、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの福音書を象徴する「四葉の装飾」や、イエスがたった5個のパンと2匹の魚を5000人に分け与え、全員が満腹になったという聖書の物語を象徴する「五つのパンと二匹の魚の装飾」などが見られます。1916年に教会が完成した際の記念碑があり、碑文が日本語で書かれているので、実際に訪問して読んでみましょう。建物の評価は高く、1998年には台北市の「市定古跡」に、2013年発表の内政部「台湾宗教百景」にも選ばれています。

学びのポイント

前身は台湾人の資金で建てた日本人のための教会

済南教会の前身は、1896年に設立された台北日本基督教会で、これは日本人のための教会でした。1900年に西門外街礼拝堂が建てられますが、すぐに手狭になったため、1907年から10年をかけて現在の建物が建てられ、1916年に完成しました。建築にあたり、台湾人の豪商李春生が多額の資金を提供し、日本人建築家の井手薫が設計を担当しました。1937年には台北幸町教会と名前を変えています。李春生はお茶の貿易で財を成した人物ですが、哲学者でもあり、多くの社会事業も手掛ける多才な人物でした。キリスト教徒でもあり台湾基督長老教会に多額の寄付をしました。済南教会のほか、大稲埕教会の建設にも資金提供をしています。

教会完成時の碑文(藤野陽平提供)

戦後は2つの団体が利用する教会に

台北幸町教会は日本人用の教会だったため、戦後、日本人が引き揚げた後、台湾人信徒がこの教会(現在の済南教会)を引き継ぎました。その後ほどなくして、多くの人々が中国大陸から台湾にやってきました。その中にはキリスト教徒も含まれていました。同じキリスト教徒として助け合おうと、台湾人信徒を中心とする教派と中国大陸から来た人々を中心とする教派が一つの建物を共用することになりました。
しかし、使用にあたって交わしていた借用書が騙し取られて権利関係が曖昧になり、さらに1936年に建てられた日曜学校のための施設も占拠され私的に利用されてしまいます。この不幸な共存状態は、2002年に済南教会が200万台湾元で権利を買い戻したことで解決しています。占拠され荒れ放題になっていた日曜学校の建物は2020年にリフォームされ、礼拝堂とあわせて日本統治時代の建築物の姿を見ることができるようになっています。

民主化運動の聖地に

済南教会は台北市中心部の台北駅の間近に位置し、大規模なデモや集会の会場になる総統府の前のケタガラン大道(凱達格蘭大道)へも歩いて10分ほどの距離にあります。済南教会には社会的な問題に関心のある人も多く、民主的な主張をするデモに対して協力的な姿勢をとります。例えば2014年のひまわり学生運動の際には、済南教会の隣にある立法院を包囲するデモに参加するキリスト教徒のために、毎晩祈りの会が開かれました。
雨傘革命や逃亡犯条例への反対デモなど香港の民主化の動きへの支援も活発で、一時期は台湾における香港支援の中心的な働きを担っていました。現在は香港人のための広東語による礼拝も行われています。

済南教会内部(藤野陽平提供)

さらに学びを深めよう
  • 【現地体験学習】台湾宗教百景などを参考に建物の特徴を調べましょう。
  • 【現地体験学習】近くでは台湾大学病院、立法院、監察院などの日本統治期に建てられた建物が今でも多く利用されています。それらも訪問して済南教会の特徴を考え、当時の街の様子を想像してみましょう。
  • 【事前学習】【現地体験学習】済南教会の設計をした井手薫は、台湾で他にも建築物を造っています。彼について調べ、他の建築も訪問し、済南教会と見比べてみましょう。
参考資料
戦後に外省人が流入した後の混乱については、藤野陽平「台湾の政教関係にとっての台湾語教会という存在―長老教会と台湾独立派の友好関係」(櫻井義秀編著『現代中国の宗教変動とアジアのキリスト教』北海道大学出版会、2017年)に簡単に紹介されています。済南教会のウェブサイトには日本語による歴史の紹介も掲載されています。済南教会をめぐる二つの教派の複雑な関係については、藤野陽平「二つのアイデンティティの間で揺れる台湾の教会」(『キリスト新聞』2018年9月11日)を読んでみましょう。

(藤野陽平)

公式ウェブサイト
http://www.chi-nanchurch.tw
所在地
10051 台北市中正区中山南路3号
キリスト教の教会です。日曜日の礼拝の時などに参観する際には迷惑にならないようにしましょう。特に香港人礼拝の際は亡命者などさまざまな困難を抱えている人もいます。集会の参観や参加には許可が必要で、写真や動画の撮影などは厳禁です。