世界各国で冤罪の例が絶えません。日本にも台湾にも、冤罪で起訴されて長年にわたり投獄された人、あるいは死刑執行された無実の人がいます。なぜ冤罪が生みされるのでしょうか。そして冤罪がなくなる日は来るのでしょうか。司改会では冤罪被害者の体験を聞き、冤罪について考えることができます。
上述の徐自強さんは、1995年に発生した誘拐殺人事件の共犯者として逮捕・起訴され、翌96年に士林地方裁判所の第一審で死刑判決を受けました。その後、1997年から99年にかけて台北高等裁判所で行われた五度の審判は、いずれも第一審の死刑判決を支持、2000年4月には、最高裁判所で死刑が確定しました。ここで司改会は、徐さんの救援活動に乗り出します。同年5月に共に死刑判決を受けた被告の一人が「徐さんは事件に無関係」と供述を翻したことで監察院が事件の再調査に乗り出し、2003年には徐さんと弁護団が大法官会議に違憲審査を求めて再び高裁で審理が行われることとなりました。そして、2009年から15年にかけて裁判を闘い抜き、16年に無罪を勝ち取ったのです。
司改会の設立20年を記念して2015年に作られた映像『司改二十』の中で徐自強さんは、「20年間諦めることなく闘い続けたからこそ、司改会は台湾の司法を変え、私の人生を変えることができたのです」と述べています。
民間司法改革基金会提供
民間司法改革基金會
民間司法改革基金会
公平正義で信頼できる司法制度を市民の力で確立する
民間司法改革基金会(略称:司改会)は、台湾で唯一の司法制度を専門とするNGOです。 1995年設立、1997年に財団法人として認可され、正式に運営を始めました。戦後の台湾は、長期にわたる権威主義体制下、その中で多くの冤罪が生まれ、刑法、訴訟法などには権威主義時代の痕跡が刻まれました。司改会は、台湾社会が民主化・自由化に向かう中、市民の力を結集して司法に残された数々の問題を解決し、公平正義で信頼しうる司法制度を確立することを目的に設立されました。司改会が取り組む主な課題は四つあります。(1)改革法案の推進、(2)司法の監視と評価、(3)冤罪被害者の救済、(4)法教育です。なかでも、冤罪被害者の救済は司改会の代名詞と言えるほど、中心となる重要な業務です。かつて冤罪によって起訴され、その後無罪判決を受けた徐自強さんと蘇建和さんも司改会で活躍しています。
学びのポイント
冤罪被害者の話に耳を傾け冤罪について考える:徐自強さんの場合
日台の裁判員制度の交流
台湾は2023年から正式に裁判員制度を導入します。これは台湾で近年最も重要な司法改革です。一方、日本ではすでに2009年から裁判員制度が行われ、司法制度に様々な影響を与えています。制度上は台湾と日本には大きな差がありますが、本質的にはともに公平な裁判を求めるための制度です。日台の対話を通じて両者の違いを知り、双方の長所と短所を比べることでより良い裁判員制度のあり方を考えることができるでしょう。
民間司法改革基金会提供
さらに学びを深めよう
- 【事前学習、事後学習】日本と台湾の司法制度を調べ、両者の異同をまとめてみましょう。
- 【事前学習、事後学習】日本で起こった冤罪の事例を調べてみましょう。一つの事件を取り上げて、事件の概要と裁判の進行を理解し、自分の見解を述べましょう。
- 【現地学習】司改会が救済に関わった冤罪事件について、スタッフに話を聴いてみましょう。
- 【事後学習】近くの裁判所で裁判を傍聴してみましょう。審理の様子を記録して自分の見解を述べましょう。
参考資料
台湾の法律については、蔡秀卿、王泰升『台湾法入門』(法律文化社、2016年)を読んでみましょう。台湾の刑事司法制度については、日本台湾交流協会のウェブサイトで紹介されています。台湾の検察制度については、台湾士林地方検察署のウェブサイトが参考になります。また、日本と台湾の刑事司法、法教育についてわかりやすく論じたものとして、阿古智子・石塚迅・山﨑直也編『東アジアの刑事司法、法教育、法意識―映画「それでもボクはやってない」海を渡る』(現代人文社、2019年)があります。裁判員制度については『裁判員制度の10年』(日本評論社、2020年)が、裁判員経験者と専門家との対話でわかりやすく裁判員制度を理解する一冊です。
- ウェブサイト
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公式https://www.jrf.org.tw/
(中国語・英語)
- 所在地
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台北市中山区松江路90巷3号7楼(台北事務所)
- 特記事項
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要予約、要事前相談。
台北事務所は一回40人以下、台中事務所は一回30人以下。台北では台湾司法をテーマにした講座や討論会がメイン、台中では冤罪や社会運動に関する常設展があります。
日本語の対応は可能ですが、要相談です。日程により英語のみの場合もあります。