蘭嶼発電所(台灣電力公司提供)

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台電核能後端營運處蘭嶼貯存場

蘭嶼放射性廃棄物貯蔵施設

環境の正義をめぐる放射性廃棄物貯蔵施設

蘭嶼にある台湾電力の放射性廃棄物貯蔵施設は、1982年に完工しました。1970年代初期に蘭嶼に放射性廃棄物を貯蔵する計画が立てられてから放射性廃棄物貯蔵施設が完工するまでの間、蘭嶼に暮らす先住民のタオ族の人々は製缶工場が建設されるものと思い込んでいました。完工後にようやく放射性廃棄物貯蔵施設が造られたことを知った蘭嶼の住民は、長年にわたり抗議活動を展開することになります。この場所は、今なお環境、土地、先住民族の権利をめぐる争点となっています。

学びのポイント

放射性廃棄物処理施設の設置をめぐって

調査報告書によれば、放射性廃棄物貯蔵施設の設置に際し、建設に関する計画等は、建設工事が始まるまで機密事項とされたため、蘭嶼に暮らす先住民族のタオ族の人々は十分な情報を手に入れられないまま建設案に同意しました。1980年代に入り、完成間近になって、工事に関する詳細な情報がようやく住民の知るところとなりました。その後40年近くの間、放射性廃棄物貯蔵施設が蘭嶼の先住民族の伝統生活、環境、経済発展に影響を与え、タオ族の人々の精神的負担になってきたことは否定できません。現在、貯蔵施設の設置にともなう賠償、蘭嶼地域の今後の発展と、放射性廃棄物の移転先が大きな課題となっています。

先住民族の移行期正義

蘭嶼に放射性廃棄物貯蔵施設が設置された理由を考える上で、先住民族の移行期正義の問題を見過ごすわけにいきません。かつて台湾では、先住民族の土地などが不当な手段で奪われ、言語や文化の違いによる差別から先住民族が教育資源の不平等に直面し、経済的にも不利な立場におかれることが多くありました。先住民族の移行期正義とは、民主化した社会が、過去の人権侵害や先住民族への略奪に対して、被害者の名誉回復や補償を行い、過去に行ったことの真相を究明した上で、国家と先住民族の緊張関係に向き合い、正義を実現することで、和解に至ることを指します。住民の大多数を先住民が占めるこの島を選んで放射性廃棄物処理施設が建てられたことも、問い直しが必要な過去の不正義と言えるかもしれません。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】原子力発電の是非をめぐる議論は、台湾だけではなく、日本や世界各国でもなされています。原発について、世界各国がどのような立場をとり、どのような政策を打ち出しているかを調べてみましょう。
  • 【事後学習】蘭嶼での放射性廃棄物貯蔵施設の設立の争点は、原子力発電への賛否だけではなく、先住民族の移行期正義に関わる問題でもあります。先住民族の移行期正義について、さらに調べ、考えてみましょう。
参考資料
先住民族の移行期正義に関して、台湾は原住民族転型正義委員会を設立しました(「先住民族『移行期の正義』委員会を設置=総統府」『TAIWAN TODAY』、2016年5月27日)。移行期正義について、さらに勉強したい方は、『日本台湾学会報』第20号(2018年)の特集「シンポジウム 転型正義と台湾研究」所収呉豪人著、藤井康子・北村嘉恵訳「大いなる幻影に抗して : 台湾の市民社会による転型正義への試み」、北村嘉恵「「転型正義」/「転型不正義」からの問い」を読んでみてください。

(郭書瑜)

ウェブサイト
台湾電力公司 https://www.taipower.com.tw/tc/page.aspx?mid=219&cid=203&cchk=d03a95d5-38f9-4c41-b144-808f604c7a8f

(中国語)

所在地
台東県蘭嶼郷952