北斗郡守館舍

北斗は彰化県の南部に位置し、人口3万人ほどの小都市です。台湾中南部を流れる濁水渓は台湾最長の河川であり、流れが非常に急なこともあって、頻繁に洪水を起こしやすいことで知られています。その濁水渓の旧河道であり、現在は旧濁水渓と呼ばれる川の北岸に位置するのが北斗です。かつては東螺、のちには寶斗と呼ばれ、濁水渓本流のそばにあって水運による物流の拠点でした。そのおかげで、かつては台湾でも非常に栄えた街のひとつでした。しかし、日本統治時代に新たに物資輸送の主役となった鉄道が北斗を経由しなかったため、彰化南部地方の中心は徐々に鉄道駅のある員林へ移っていきました。

台湾が日本の統治下に置かれたあと、日本は各地方を統治する行政機関をくまなく配置していき、北斗には東螺西堡北斗街が設置されました。これに伴い地方統治の制度や施設が整えられていきます。その後の変遷を経て、1920年、地方制度改正により北斗郡が設置され、北斗街に郡役所などが置かれることになりました。さらに、郡のトップである郡守の官舎なども建てられました。北斗鎮に保存されているのは、日本統治時代に建てられ北斗郡の役人たちが住んだ、いわゆる「官舎」建築です。現在、このエリアに残されている20棟ほどの建物のうち日本統治時代に建てられたものは15棟あり、中核となる北斗郡守官舎は1937年頃までに建てられたとされています。日本の統治が終わったあと、このエリアはそのまま地方官僚の宿舎として活用されました。これらの官舎が建てられたのとほぼ同じ時期に、やや北側に北斗神社が建てられ、この地方の統治の要とされました。 彰化県二二八・人権紀念館の北斗神社は日本の統治が終わると撤去され、現在その跡地には国立北斗高級家事商業職業学校（北斗家商）が建っています。北斗家商から官舎街に向かって伸びる道は「神社路」と呼ばれ、かつてそこに神社があったことを伝えています。街の中心には北斗奠安宮という廟がありますが、この廟にある石獅子はもともと北斗神社の狛犬だったと伝えられています。 北斗郡守官舎には、比較的身分の高い役人の官舎に典型的な特徴があります。単に日本の木造建築を台湾に持ってきたわけではなく、高温多湿な台湾の風土に対応するためにいくつかの工夫が凝らされています。もともと台湾では煉瓦を使った建物が主流でしたが、日本はさまざまな工夫を取り入れることで慣れ親しんだ和風建築を台湾に導入しました。

かつての北斗神社の痕跡（松葉隼氏提供）

北斗郡守官舎は修復を経て、2018年から「彰化県二二八・人権紀念館」として平和や人権に関する展示をする施設として活用されています。二二八事件の被害は、台北のみならず全国に広がっていきました。紀念館では、彰化出身の二二八事件の被害者、日本統治期の農民運動から、戦後の白色テロ、各種社会運動などの資料、あるいは人権に関するアートなども展示し、人権に関わるイベントや活動を主催するなど、さまざまな人権を語るスペースとなっています。