松葉隼撮影

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溪湖糖廠

渓湖糖廠

蒸気機関車とディーゼルカーが今に伝える糖業の歴史

台湾中部彰化県の渓湖糖廠は、1919年から2002年まで稼働していた台湾中部で最大だった製糖工場の跡地です。現在は、工場跡の見学のほか、アイスクリームやバーベキューなども楽しめる総合的な施設となっています。また、サトウキビの運搬などに利用していた製糖用鉄道(糖業鉄道、シュガートレイン)の車両も多数保存されており、実際に乗車することも可能です。砂糖や製糖業といった産業発展の歴史だけでなく、台湾の交通発達史も学ぶことができます。

学びのポイント

濁水渓が育んだ肥沃の地

台湾のほぼ真ん中を流れ、台湾を南北に分ける濁水渓。台湾最長のこの川は、これまでの歴史でなんども氾濫を繰り返し、肥沃な平原を生み出しました。台湾中部の彰化県は、濁水渓が生み出した平原により、昔から多くの人々が生活を営んできた地域です。濁水渓の旧河道のひとつ、旧濁水渓のほとりに位置するのが渓湖鎮です。現在では野菜や果物の一大生産地であり、ぶどうとヤギの町としても知られています。

松葉隼撮影

台湾中部最大の製糖工場

渓湖には、かつて台湾中部最大級の生産能力をもつ製糖工場がありました。2000年代頃まで、台湾中南部には多くの製糖工場がありました。その多くは日本統治時代に建設されたもので、第二次世界大戦後は国営企業である台湾糖業公司(台糖)が経営しました。1980年代頃まで、砂糖は台湾の重要な輸出品であり、産業の中心でした。しかし、1990年代に経済構造の転換や、工業や第三次産業の発展が起こり、また国外から安価な砂糖が輸入されるようになったことで、2000年代には各地にあった製糖工場のほとんどが閉鎖されました。渓湖の製糖工場は、台湾人の富豪であった辜顕栄を中心に、1919年に建設されたものでしたが、2002年に工場としての役目を終えました。現在は旧工場が観光園区として再整備され、製糖工場跡地を見学できるほか、バーベキューなども楽しめる大型施設に生まれ変わっています。

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復活した蒸気機関車

現在の渓湖は高速道路がすぐ近くを通り、決して交通が不便な地域ではありません。しかし、日本統治時代から現在まで旅客鉄道は通っておらず、製糖工場の製品や資材の運搬を目的とする製糖用鉄道(糖業鉄道、シュガートレイン)が台湾鉄道の員林駅まで延びていました。この他、海沿いの鹿港駅とを結ぶ鉄道もありました。台湾中南部には、製糖工場の周辺に、広大なさとうきび畑が広がっていました。製糖用鉄道は、広大な畑から工場までサトウキビを運搬する際にも利用されました。これらの鉄道のレール幅は世界的な標準のレール幅(標準軌)の約半分しかないことから、「五分車」と呼ばれていました。貨物輸送が主でしたが、旅客列車も運行され、地域の人々が買い物や外出に利用していました。かつては台湾全土にこのような製糖用鉄道が張り巡らさていましたが、自動車の発達とともに、サトウキビや製品の輸送もほぼトラックに切り替えられ、多くが廃止されました。現在、渓湖製糖工場では、観光用に製糖用鉄道の一部線路が保存されており、よく見られるディーゼル機関車だけでなく、2007年に復活した1948年製の蒸気機関車や、一般の旅客を運んだディーゼルカーなどが動かせる状態で保存されています。いずれも、台湾の産業や交通の歴史を今に伝える貴重なものとなっています。

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さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】台湾修学旅行アカデミー(第12回)の「台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」を見て、台湾の製糖業の歴史について調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】渓湖製糖工場以外でも見られる製糖用鉄道を探してみましょう。
  • 【現地体験学習】製糖工場を見学しましょう。砂糖はどのように生産されるでしょうか。
参考資料
台湾の製糖業については、赤松美和子・若松大祐編著『台湾を知るための72章』第2版(明石書店、2022年)や伊藤潔『台湾』(中公新書、1993年)のような入門書にも言及があります。日本統治時代の製糖業について専門的知識を深めたい方は、矢内原忠雄著、若林正丈編『矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読』(岩波現代文庫、2001年)にチャレンジしてみましょう。台湾だけではありませんが、砂糖の歴史を知るには、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996年)をおすすめします。また、台湾修学旅行アカデミーby SNET台湾には砂糖の歴史について紹介した「第12回 台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」(講師:清水美里)があります。このほか、みんなの台湾修学旅行ナビでは、「花蓮観光糖廠」が紹介されています。シュガートレインについては、イカロスMOOK『最新版台湾鉄道旅行―客車列車が絶滅寸前!いまが最後のチャンスだ!』(イカロス出版、2019年)で紹介されています。

(松葉隼)

ウェブサイト
公式 https://www.taisugar.com.tw/chinese/Attractions_detail.aspx?n=10048&s=125&p=0

(中国語)

所在地
彰化県渓湖鎮彰水路二段762号

特記事項
製糖用鉄道の運行は休日のみ。平日の運行はチャーター運賃が必要(原則としてディーゼル機関車による列車)。